特別条項付き36協定とは? 特別条項の設定で企業が注意すべきこと
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令和5年11月、東京労働局は、令和4年度に監督指導を実施した都内の事業場のうち7割にあたる事業場11,050カ所で労働基準関係法違反があったと発表しました。
政府による「働き方改革」が推進されているなか、企業が36協定を深く理解することは、労働者の安全や健康を守り、健全な企業経営のためにも不可欠となっています。
今回は、とくに労働基準法で問題になることの多い36協定やその特別条項について、ベリーベスト法律事務所 池袋オフィスの弁護士が解説いたします。
1、そもそも36協定とは?
使用者(企業や経営者、雇用主など)は、原則として法定労働時間を超え、または、法定休日において、労働者を働かせることができません。
しかし、労働基準法36条により、事業場の過半数組合または過半数代表者と協定を締結してこれを行政官庁に届け出た場合は、その協定で定めるところにより、時間外労働や休日労働をさせることができるようになります。
この、労働基準法36条を根拠とした協定を「36協定」と呼びます。
以下では、36協定の概要を解説します。
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(1)法定労働時間とは
使用者は、法定労働時間を超え、または、法定休日において労働者を労働させることができません。
具体的には、使用者は、休憩時間を除き、1週40時間を超えて労働をさせてはならず、かつ、1日8時間を超えて労働させてはならないとされています。
この1週40時間、1日8時間の労働時間の上限を「法定労働時間」といいます。
就業規則などで定める所定労働時間はこの法定労働時間の範囲内におさまっている必要があり、法定労働時間を超えて定めても、その部分は無効となり、法定労働時間に修正されます。
また、法定労働時間を超えて労働させた場合には、使用者には刑事罰が科されることになります(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)。
法定労働時間を超える労働をさせる場合には、36協定の締結などの一定の要件を満たさなくてならず、法定の割増賃金を支払わなくてはなりません。 -
(2)時間外労働とは
「時間外労働」とは、週40時間、1日8時間の法定労働時間を超える労働のことです。
また、「休日労働」とは、週1日の法定休日における労働のことをいいます。
たとえば、就業規則で「1日の所定労働時間は7時間」とされている会社の場合、時間外労働とは1日8時間を超える労働時間部分となり、7時間目から8時間目の間の1時間は「所定外労働時間ではあるが、労基法上の時間外労働ではない」ということになります。
また、週休2日制をとっている(たとえば就業規則で土曜日や日曜日を休日としている)会社の法定休日はこれらのうち週1日(例えば日曜日)であり、これとは別の休日(たとえば土曜日)および国民の祝日における労働は、休日労働ではないことになるのです。 -
(3)36協定とは
時間外労働を行うために必要な36協定は、事業場の過半数組合または過半数代表者と書面による協定を締結し、これを行政官庁に届け出た場合に有効となります。
もっとも、36協定を締結したとしても無制限に時間外労働を行うことができるようになるわけではなく、上限が存在します。
具体的には、月45時間、年360時間までで設定した時間外労働が認められることになります。ただし、一定の臨時的な特別な事情がある場合には、さらにこの上限を超えて時間外労働を行うことが可能となります。
この特別な事情や延長できる上限の時間を定めた36協定の条項を、「特別条項」といいます。
2、36協定の特別条項とは?
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(1)36協定の特別条項
時間外労働を行うためには、36協定の締結が必要であり、36協定を締結した場合には、月45時間、年360時間までで設定した時間外労働が認められることになります。
さらに、特例として、臨時的な特別の事情がある場合に特別条項により限度時間を超える時間を定めることができるものとされています。 -
(2)上限時間
36協定の特別条項であっても、無制限ではなく、下記のような上限が定められています。
- 時間外・休日労働をさせることができる時間は1か月100時間未満、かつ、2か月ないし6か月の平均でいずれにおいても月80時間以内
- 1年間で時間外労働をさせることができる時間は720時間以内
- 月45時間(3か月を超える1年単位の変形労働時間制の場合には月42時間)を超えることができる月数を1年について6か月以内
特別条項を設けた場合であったとしても、これらの上限時間を順守する必要があります。
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(3)特別条項が使用できる場合
特別条項が適用できる場合は、限定されています。
労基法第36条第5項では、「当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に第3項の限度時間を超えて労働させる必要がある場合」とされています。この「第3項」とは、36協定の特別条項が適用されない場合の上限(=月45時間、年360時間)のことをいいます。
なお、この条文だけを見ると「予見不可能である」ということも要件になっているように思えるかもしれませんが、「業務量の大幅な増加等」の「等」があることから、「予見不可能な業務量の大幅増加」というのは例示にすぎない という解釈が厚生労働省によってされています。
したがって、「臨時的に限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない特別の事情があるか」どうかを主に検討しましょう。
具体的に特別条項の適用が認められるもの/認められないものの例としては、以下のようなものが挙げられます。<特別条項の適用が認められるもの>- 決算・予算業務
- ボーナス商戦等による業務の繁忙
- 納期ひっ迫
- 大規模クレーム対応
- 機械トラブル当の対応
<特別条項の適用が認められないもの>- (とくに事由を限定しない)業務都合で必要なとき
- (とくに事由を限定しない)業務上やむを得ないとき
- (とくに事由を限定しない)業務繁忙なとき
- 会社が必要と認めるとき
- 年間を通じて適用されることが明らかな場合
3、特別条項付き36協定に違反した場合の罰則
以下では、特別条項付きの36協定に違反した場合に受けるペナルティについて解説します。
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(1)科される刑事罰
特別条項への違反も含め、36協定に違反するパターンとしては、以下のようなものがあります。
- 36協定を締結しないで時間外労働をさせた場合
- 36協定を締結したが、「月45時間、年360時間」の制限に違反した場合
- 特別条項付きの36協定を締結したが、「特別条項の上限時間」を守れなかった、あるいは、特別な事情がないのに「月45時間、年360時間」を超えて労働をさせてしまった場合
いずれの場合にも、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される対象になります。
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(2)刑事罰の対象・公表
36協定に違反した場合、会社そのもののみではなく、労働をさせた労務管理責任者(たとえば、工場の所長や部門長)も罰則の対象となります。
また、労働基準監督署では、労働基準法違反があった場合には、送検事例の公表を行っているため、書類送検されると企業名が公表されます。
36協定違反があった場合には、刑事罰を受けるのみならず、企業に対する信頼も大きく損ねることにもつながる点に注意してください。
4、特別条項の設定において企業が注意すべきこと
特別条項を適法に設定し、実際に特別条項にしたがって従業員を労働させる場合であっても、企業としては注意しなくてはならないことがあります。
たとえば、従業員に対して安全配慮義務を負っていますから、36協定には違反しなかったとしても、個別的な場合には「従業員にそのような特別条項に基づく労働をさせるべきではなかった」という安全配慮義務違反に問われる可能性が否定できないのです。
企業の経営者や担当者としては、従業員の健康管理や労働環境の改善、長時間労働をできる限り避けるなど適切な労務管理を日ごろから行うことが大切です。
5、まとめ
36協定の特別条項を活用するためには、どのような場合に特別条項を使用できるのか、特別条項を使用できるとしてその上限時間はどの程度か、特別条項はどのように協定に記載したら良いのか、など配慮しなくてはならないことは多岐にわたります。
また、36協定(特別条項)は、従業員に対する労務管理の一内容として位置付けられるものであるため、企業としての労務管理体制や労務人事ビジョンの全体を整える必要があるといえます。
ベリーベスト法律事務所は企業法務や労働問題に対応経験が豊富であり、また、多様なプランのある顧問弁護士サービスを用意しております。
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