SES契約が違法となるケースは? 回避する方法を弁護士が解説

2025年06月04日
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SES契約が違法となるケースは? 回避する方法を弁護士が解説

SES契約は、エンジニアを顧客先(クライアント)に派遣してプロジェクトに参加させる契約です。

一般的なSES契約は準委任契約に当たるため、顧客先はエンジニアに対し、業務の進め方や時間配分などを具体的に指示することができません。もし具体的な指示が行うといわゆる「偽装請負」に当たり、SES契約が違法となるおそれがあります。

本記事では、SES契約が偽装請負として違法となるケースにつき、ベリーベスト法律事務所 池袋オフィスの弁護士が解説します。

1、SES契約とは?

「SES契約」とは、エンジニアを顧客先に派遣して業務を行わせる契約です。「SES」は「システムエンジニアリングサービス(System Enginring Service)」の略称です。

  1. (1)SES契約の具体例

    SES契約によってエンジニアに委託される業務としては、以下の例が挙げられます。

    • システム開発(プログラミング)
    • システム設計
    • システム開発完了後のテスト
    • システムの運用、保守
    • システムに必要なデータベースの設計、運用
    など


    エンジニアは、主に顧客先のオフィスに常駐(もしくはリモートワーク)し、上記の業務を行います。これを「客先常駐」と呼びます。

  2. (2)SES契約の「準委任契約」と「請負契約」「労働者派遣契約」の違い

    準委任契約 請負契約 労働者派遣契約
    契約の目的 一定の注意義務をもって業務を遂行する。結果が出るかは問わない 特定の成果の完成。完成しなければ報酬請求不可 派遣先の指揮命令のもとで労務を提供。派遣先・派遣元の責任が明確
    契約当事者 業務委託者(委任者)と受任者(受託者) 発注者(注文者)と受注者(請負人) 派遣元事業主と派遣先企業、労働者の三者関係
    仕事の例 システム運用・保守、弁護士業務、コンサルティングなど 建設工事、システム開発プロジェクト、Webサイト制作など 派遣社員による事務、技術、製造業務など

    一般的なSES契約を法的にみると、表の「準委任契約」に該当します。準委任契約とは、法律行為でない事務を委託する契約です(民法第656条)。

    システムやデータベースの開発・設計・運用・保守などは「法律行為でない事務」に当たるため、SES契約は準委任契約であると整理されています。

    準委任契約は、建設工事やコンテンツ制作などが該当する「請負契約」と異なり、仕事の完成を目的としていません。

    そのため、準委任契約の受任者(受託者)は、契約で定められた事務を行えば、その結果にかかわらず義務を果たしたことになります。

    また、準委任契約であるSES契約はエンジニアを顧客先に派遣するものですが、「労働者派遣契約」とは異なります。労働者派遣契約では、派遣元に雇用されている労働者が派遣先の指揮命令下で働きます。

    これに対してSES契約では、エンジニアはあくまでもSES企業の指揮命令下で働き、顧客先の指揮命令には服しません

2、SES契約が違法となるケース|偽装請負に要注意

1章の記述の通り、準委任契約ならSES企業、労働者派遣契約なら派遣先(顧客先)の指揮命令下で働きます。

そのため、エンジニアが顧客先の指揮命令下で働いているなら、SES契約が実質的に労働者派遣契約に該当することになります。これはいわゆる「偽装請負」と呼ばれる状態です。偽装請負のリスクや具体的なケースについて解説します。

  1. (1)偽装請負のリスク

    そもそも労働者派遣事業を行うためには、厚生労働大臣の許可を受ける必要があります(労働者派遣法第5条第1項)。また、労働者派遣契約には労働者派遣法所定の事項を定めなければならないなど、さまざまな規制を順守する必要があります。

    SES契約が偽装請負に該当する場合は、労働者派遣法に違反する可能性が高く、SES企業やその担当者は刑事罰を受けるおそれがあるので要注意です

    たとえば以下のような状況にある場合は、SES契約が偽装請負に当たると判断されるおそれがあります。このような状況を発見したら、早急に是正を図りましょう。

  2. (2)ケース1│顧客先から具体的な指示を受けている

    SES契約によって派遣されているエンジニアに対し、顧客先は業務の進め方や時間配分などに関する具体的な指示を行うことができません。

    SES契約は準委任契約であるため、エンジニアは顧客先の指揮命令に服しないからです。

    もしエンジニアが顧客先から具体的な指示を受けている場合は、準委任ではなく労働者派遣であると判断されるおそれがあります。

  3. (3)ケース2│顧客先の服務規程の順守を求められている

    SES契約によって派遣されているエンジニアは、顧客先の服務規程を順守する義務を負いません。

    服務規程の順守を義務付けることは指揮命令権行使の一環であるところ、SES契約のエンジニアは顧客先の指揮命令に服さないためです。

    たとえば、エンジニアが顧客先から労働時間や休憩時間、服装などの服務規程の順守を求められている場合は、準委任ではなく労働者派遣であると判断されるおそれがあります。

  4. (4)ケース3│顧客先のオフィスに1人だけで常駐している

    SES契約のエンジニアが顧客先のオフィスに1人だけで常駐している場合、それのみで直ちに違法となるわけではありませんが、常駐の形態によっては、偽装請負と判断されるリスクが高くなります。

    特に注意すべきなのは、エンジニアがオフィスを離れることを制限されているケースや、オフィス自体の管理責任者となっているケースなどです。これらの場合には、顧客先が強力な指揮命令権を行使し、エンジニアを過度に拘束していると判断されるおそれがあります。

    SES契約の顧客先は、エンジニアに対して指揮命令権を行使することができません。エンジニアが顧客先のオフィスにおいて、上記のような形で1人だけで常駐している場合には、準委任ではなく労働者派遣であると判断されるリスクが高いと考えられます。

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3、SES契約が違法と判断されることを防ぐ方法

SES契約が偽装請負として違法と判断されることを防ぐには、SES企業は以下のような対応を行いましょう。

  1. (1)エンジニアの選定や指揮・管理をSES企業側が行う

    顧客先がエンジニアを過度に拘束すると、SES契約が偽装請負であると判断されるリスクが高くなります。

    それを防ぐには、エンジニアの選定や指揮・管理をSES企業側が行うことが大切です。顧客先ではなく、SES企業が主導してエンジニアを管理しているという形を明確化しましょう

    特に労働時間や休憩時間については、顧客先ではなくSES企業側で管理することを徹底しましょう。

  2. (2)業務の進め方をSES企業側が決める

    SES契約に基づく委託業務の進め方は、顧客先ではなくSES企業側が決めるようにしましょう。

    もちろん、顧客先のニーズに応じる必要はありますが、最終的な判断はSES企業側で行うことが大切です。エンジニアが顧客先の指示を断れないような状況が発生している場合は、偽装請負のリスクが高くなるので十分ご注意ください。

  3. (3)エンジニアから業務の実態をヒアリングする

    SES契約が準委任と労働者派遣のどちらに該当するかは、業務の実態から実質的に判断されます。

    エンジニアが派遣されている現場において、どのような形で業務が行われているのかは、エンジニアに聞いてみないと分からない部分があります。上司などが定期的に面談を行い、偽装請負が疑われるような状態が存在しないかどうかをヒアリングしましょう。

    エンジニアからの聞き取りにより、顧客先がエンジニアに対して指揮命令を行っていることが判明した場合には、顧客先に抗議して是正を求めましょう。

  4. (4)弁護士のアドバイスを受ける

    SES契約のエンジニアの業務実態に問題がないかどうかは、法的な知識がなければ適切に判断することができません。

    SES契約が偽装請負と判断されるリスクを回避するためには、まずは法務問題に実績のある弁護士に相談してアドバイスを受けましょう

4、SES企業が顧問弁護士と契約するメリット

SES企業は、契約トラブルや法令違反のリスクを最小限に抑えるため、顧問弁護士と契約することがより効果的な対策といえます。

SES企業が顧問弁護士と契約することには、主に以下のようなメリットがあります。

  • SES契約などの契約書の作成やレビューを依頼できる
  • SES契約が偽装請負(労働者派遣法違反)に当たらないかどうかを判断してもらえる
  • SES契約について顧客先との間でトラブルが発生した場合に、和解交渉や裁判手続きの対応を依頼できる
  • 労務コンプライアンスを強化するため、社内で講ずべき対策についてアドバイスを受けられる
  • 社内全体に法令順守の意識が根付き、社会的信用が向上する
など


SES企業がエンジニアの管理を適切に行うためには、顧問弁護士と契約してアドバイスを受けるのが安心です。

ベリーベスト法律事務所には様々なプランの顧問弁護士サービスがございます。最適なコストで必要十分な法務サービスをお求めの場合は、まずはお気軽にご相談ください。

5、まとめ

SES契約とは、エンジニアを顧客先に派遣してプロジェクトに参加する契約で、法的には準委任契約に該当します。

SES契約のエンジニアに対し、顧客先は指揮命令権を行使することができません。エンジニアが顧客先から業務に関する具体的な指示を受けている場合や、エンジニアが1人だけで顧客先に常駐している場合などには、偽装請負として違法と判断されるおそれがあるので注意が必要です。

SES契約が偽装請負に当たると判断されることを防ぐには、SES企業側が主導してエンジニアの選定や指揮・管理を行うことを徹底しましょう。どのような対応をすべきかについては、顧問弁護士と契約してアドバイスを受けるのが安心です。

ベリーベスト法律事務所には、あらゆる業種・分野に対応できる弁護士が在籍しております。クライアント企業のニーズに応じて、リーズナブルにご利用いただける顧問弁護士サービスをご用意しておりますので、お気軽にベリーベスト法律事務所へご相談ください。

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