人員整理とは? やり方や実施する前に検討すべきこと、注意点を解説
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東京商工リサーチによると、2023年度の国内の企業倒産数は9053件とのことでした。
こうした流れの中、企業が経営不振や倒産を回避するために、人員整理に踏み切ったなどいう報道を耳にされたこともあるかと思います。ただし、人員整理として整理解雇を行う場合、企業には注意すべき点が複数あります。
この記事では、人員整理を実施する前に検討すべきことや具体的な人員整理の方法、注意点について、ベリーベスト法律事務所 池袋オフィスの弁護士が解説いたします。
1、人員整理とは? 人員整理の定義
人員整理はよく耳にする言葉ですが、「人員整理」という法令上の用語や明確な定義があるわけではありません。
一般的には、会社の事業を縮小する場合などに、会社に在籍する正社員、契約社員、パートやアルバイトといった従業員の人数を減らすことを人員整理と呼びます。
一方、人員整理と似た用語で「整理解雇」があります。整理解雇は、正社員を対象に人員削減のために解雇することを指すため、人員整理のひとつの類型が整理解雇ということができます。
整理解雇は、解雇事由が必要であるため、ハードルが高いことは後述いたします。
2、人員整理のメリット・デメリット
適切な人員整理のためにはメリット・デメリットを把握しておくことが重要です。具体的には以下の場合があげられます。
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(1)メリット│人件費の削減
最も典型的な目的であり、会社の収益が悪化状況にあり、給与などのコストを削減し収益を改善させるために行うものです。会社における人件費の占める割合は大きいため、適切な人員整理が行われることで収益は回復することになります。
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(2)メリット│効率化
各種のロボットやAIといったテクノロジーの活用、オートメーション化によって、必ずしも収益の悪化が生じているわけではなくとも、余剰となってしまう人員を削減することで効率化・合理化を目的として行うものです。これによって、人為的なミスや労働災害の発生を防止することにもつながります。
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(3)デメリット│紛争リスク
一方で、人員整理もメリットばかりではなく、デメリットもあります。人員整理の方法である正社員の整理解雇や、有期契約社員に対する雇い止めは、適法となる要件のハードルがあり、裁判所を介した法的紛争に至る可能性は否定できません。
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(4)デメリット│社会的な信用性の下落
人員整理を行わざるを得ないほどの状況にあることが公知のものとなりますので、会社の信用・評判は落ちてしまうことはあり得るでしょう。その結果、銀行や仕入先、販売先との関係性が、融資が難しくなる、取引条件が不利になるなどして、変わってしまうおそれがあります。
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(5)デメリット│社員の士気低下
「会社が危険な状況である」「従業員を大事にしない」といった印象を持たれ、従業員のモチベーションが下がり、人員整理の対象にはならなかった優秀な従業員も離職するなどの影響が出てしまう可能性があります。
3、人員整理する前に検討すべきこと
人員整理を実施する前に検討すべきことがあります。
まず、最も重要なこととして、なぜ人員整理を行う必要があるのかを徹底的に検討する必要があります。人員整理に踏み切らなくてもコストを削減し業務効率化、収益を上げる方法は多く存在します。
また、人員整理を行う必要性は、その適法性を主張するために非常に重要なことです。たとえば、必要性は整理解雇の要件となっています。人員整理を行う必要性を徹底的に検討することで、従業員に合理的な必要性(理由)を示すことができ、さらに人員整理後の人員配置の決定などにいかすことができるのです。
必要性を検討した後には、人員整理の方法(退職者の募集をするのかなど)・その順序、人員整理後の計画・見通しを立てて、人員配置を実施しなくてはなりません。
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4、人員整理の方法とは?
具体的な人員整理の具体的な方法と、想定されるリスクなどについて解説します。
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(1)新規採用を停止・削減
新規の従業員の採用を停止したり、採用人数をこれまでよりも絞ったりすることで人員の増加を抑える方法があります。選考途中であったとしても、内定まで至っていないのであれば、理由を丁重に説明することで紛争リスクが避けられる可能性は高いでしょう。
なお、仮に、整理解雇や希望退職者を募集する方法を実施する場合には、新規採用は停止しておくべきでしょう。整理解雇を行っているにもかかわらず、新規採用は継続するということであれば、整理解雇の必要性について疑問を持たれるでしょうし、従業員の納得を得ることは困難でしょう。 -
(2)採用内定の取り消し
新規採用の従業員を採らない場合の措置のひとつとして、すでに出した内定を取り消すことも方法としてはあります。
しかし、個別的なケースによりますが、内定によって労働契約が成立したと見られる場合には、解雇に関する解雇権濫用法理の適用を受けるため、適法に内定を取り消すことができるかは、慎重な判断が必要です。また、労働契約が成立していないとされる場合であっても、期待権侵害による損害賠償請求をされる可能性もあります。内定取り消しは法的紛争リスクを伴う方法でしょう。 -
(3)希望退職者の募集
希望退職者の募集は、退職金を通常よりも割り増すことで退職希望者を募り、会社と従業員の合意に基づいて従業員が退職することになる制度です。このように、希望退職者の募集は、会社と従業員の合意に基づいている以上、紛争リスクは低い方法ということがいえます。
一方で、割り増す退職金などの金銭的なコストはかかりますし、退職希望者の人数のコントロールが難しく、想定よりも少ない、もしくは多い希望者が生じるおそれがあります。 -
(4)退職勧奨
希望退職者の募集は、会社全体または一定の部署などに対してのものでしたが、退職勧奨は、特定の従業員個人に対して、退職してもらうように説得し、従業員と退職の合意に持っていく方法です。
もちろん、希望退職者の募集のように、会社と従業員が真に合意をできれば適法ですが、特定個人に対して、退職を働きかけるという性質上、従業員の意思に反して退職を強要するなど、違法な退職勧奨が行われるケースも少なくありません。
違法な退職勧奨が行われた退職は無効と判断された裁判例も多く、紛争リスクはそれなりにあるため、慎重に行う必要があるといえるでしょう。 -
(5)整理解雇
希望退職者の募集や退職勧奨などの方法を用いても、さらに人員整理を行う必要がある場合には、整理解雇を検討することになります。
整理解雇は、これまでの会社と従業員の合意によって退職に至る方法とは異なり、会社が一方的に従業員を退職させる方法(解雇)であるため、整理解雇が適法となる要件を満たす必要があります。
具体的にどのような場合に、整理解雇が認められるのか、次の項目で解説いたします。
5、整理解雇を実施する際の注意点
整理解雇も解雇であるため、解雇権濫用法理(労働契約法16条)による制約がかかりますが、従業員側に責任のない解雇であるために、厳格で具体的な独自の判断枠組みとなる整理解雇の法理があります。
この法理では、整理解雇の有効性を判断するときに考慮される要素は以下の4要素です。
ひとつずつ見ていきましょう。
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(1)人員削減の必要性
会社の存続のために、やむを得ず人員削減せざるを得ないという事情が必要です。会社の実態から判断して、会社の存続のために人員整理を決定するに至った事情について、会社の売上や利益の推移その他の事情に照らしてチェックされます。ただし、会社が倒産寸前であることまでは不要です。
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(2)解雇回避の努力
解雇された従業員は大きな影響を受けますから、整理解雇を避けるための経営努力なしに解雇はできません。
そのため、いきなり解雇するのではなく、事前に残業削減、配転・出向、新規採用の停止、非正規従業員の雇止め、希望退職者の募集などの措置を講じ解雇をできるだけ回避する義務を負っていると考えられています。
もっとも、この措置のすべてを行ってからでないと整理解雇をできないわけではなく、事案に応じてどこまでの回避措置が求められるかは柔軟に判断されます。 -
(3)人選の合理性
整理解雇の対象者を選定する際には、客観的で合理的な基準を設定し、これを公正に適用する必要があります。たとえば、女性のみ、高齢者のみ、特定の思想をもつ者のみを対象とするのは不合理ですが、欠勤日数、遅刻回数、勤続年数などの勤怠状況や会社貢献度を基準とするのは、客観的で合理的といえるでしょう。
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(4)解雇手続の妥当性
整理解雇にあたって、労働組合や労働者への説明・協議、納得を得るための手順を踏んでいない整理解雇は無効となります。なお、整理解雇も解雇である以上、30日前の解雇予告を行うことが必要になります。
6、まとめ
人員整理は、雇用契約を終了させるものですから、法的な紛争リスクを想定して慎重に対応すべきものです。そのため、人員整理を実施する前に、なぜ人員整理を行う必要があるのか、メリット・デメリットを含め把握しておくことは、後々の紛争リスクを防止するためにとても重要です。
紛争回避のためには、人員整理の方法やその順序、人員整理実施後の人員配置などを、労働問題の実績ある弁護士としっかり検討することが重要です。
人員整理について不安や進め方に疑問をお持ちであれば、労働問題について解決実績のあるベリーベスト法律事務所 池袋オフィスへお気軽にお問い合わせください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています