体調不良で欠勤が多い社員……解雇や減給は可能?

2024年05月13日
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体調不良で欠勤が多い社員……解雇や減給は可能?

2022年度に東京都内の総合労働相談コーナーに寄せられた労働に関する相談は17万4985件で、その内、解雇による相談は2948件でした。

体調不良を訴えて欠勤しがちな従業員(社員・労働者)がいると、業務が停滞して他の従業員の労働時間が増える可能性があるため「職場に悪影響が生じるのでは」と懸念する使用者(会社)は少なくないでしょう。ただし、安易な解雇や減給は無効となるケースがあるため注意が必要です。

本記事では、体調不良で欠勤が多い従業員がいる場合の対処法や、減給・解雇の可否などについて、ベリーベスト法律事務所 池袋オフィスの弁護士が解説します。

出典:「令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況」(東京労働局)

1、体調不良で欠勤が多い従業員|問題点は?

体調不良を訴えて頻繁に欠勤する従業員がいると、職場に悪影響がおよぶ可能性があります。業務の停滞以外にも、カバーする他の従業員の労働時間が増えて不満がたまったり、他の従業員も健康を害したりするおそれがあるためです。

本当に体調不良であれば欠勤もやむを得ませんが、無断欠勤や欠勤理由の虚偽申告、あまりにも頻繁な欠勤などが見られる場合は、会社として何らかの対処を検討しなければなりません

2、欠勤しがちな従業員への対応

欠勤しがちな従業員がいる場合には、会社は以下の対応を行いましょう。



  1. (1)本人から欠勤の理由を聞く

    まずは、従業員本人から欠勤の理由を聞きましょう。体調不良などの正当な理由による欠勤なのか、それとも不合理な理由による欠勤なのかを確認する必要があります。

    体調不良のために欠勤していると言われた場合には、具体的な病名や治療の状況、回復の見込みなどについてもできる限り聞いておきましょう。今後どの程度の欠勤が予想されるのかが分かれば、業務の調整などがしやすくなります。

  2. (2)距離の近い同僚従業員に連絡してもらう

    従業員が欠勤の理由を詳しく話したがらない場合は、仲の良い同僚従業員に頼んで連絡してもらうことも考えられます。会社に対しては話しにくいことでも、仲の良い同僚従業員が聞けば教えてくれるかもしれません。

    ただし、同僚従業員にとっては業務外の対応になるので、無理強いはしないように注意しましょう

  3. (3)欠勤理由が不合理な場合は改善指導をする

    欠勤の理由が不合理である場合には、従業員に対して改善指導を行いましょう。

    たとえば寝坊などが理由である場合は、生活習慣の見直しについて指導することが考えられます。産業医の協力を得ることも選択肢のひとつです

    また、体調不良であるとうそをつき、実際には別の理由で欠勤していた場合には、職場における信頼を失う行為であると厳しく叱責しましょう。

    不合理な理由で欠勤している従業員には、具体的な改善計画を自分で考えさせることも大切です。欠勤の原因をリストアップし、各原因に対する解決策をまとめた報告書等を提出させましょう。

  4. (4)一定期間の休職を提案する

    体調不良による欠勤が頻繁に発生している場合は、回復するまで一定期間の休職を提案することも考えられます。

    欠勤が続く従業員が休職すれば、会社としてはその従業員がいないことを前提に業務配転の調整などができますし、不安定な勤怠を管理する必要もなくなります。従業員としても、病気などの治療に専念できます。

    対象従業員の体調をいたわりつつ、回復したらまた一緒に仕事がしたいなどと前向きなメッセージを伝えて、休職を促しましょう。

  5. (5)退職勧奨をする

    欠勤が多すぎて戦力にならない従業員に対しては、自発的な退職を促すことも考えられます。

    ただし、退職勧奨に応じるかどうかは従業員の任意なので、会社として強制することはできません。また、退職勧奨に応じる条件として、従業員から退職金の支払い等を求められることもあるので注意が必要です。

3、欠勤が多いことを理由に減給や解雇はできる?

欠勤が多い従業員については、支払う賃金を減らす、または解雇すべきではないかと考えている会社も多いでしょう。欠勤が多いことを理由とする減給や解雇について、法律上の取り扱いを解説します。

  1. (1)欠勤中の賃金は支給不要

    従業員が欠勤した日につき、会社は原則として賃金を支払う必要がありません。賃金は労働の対価であり、労働していない日については原則として賃金が発生しないからです(=ノーワーク・ノーペイの原則)。

    したがって、減給という形をとるまでもなく、欠勤日数に応じて賃金を控除することは認められます

    ただし例外的に、従業員が有給休暇を取得した場合や、会社の制度に基づき有給の私傷病休暇を取得した場合などには、賃金が発生する点にご注意ください。

  2. (2)懲戒処分(減給・懲戒解雇等)は、本当に体調不良の場合は原則不可

    欠勤が多いことを理由に、減給や懲戒解雇などの懲戒処分を行う際には、懲戒処分の要件を満たしていることを確認しましょう。

    懲戒処分を行うためには、従業員の行為が就業規則上の懲戒事由に該当する必要があります。この点、欠勤の理由が本当に体調不良である場合は、原則として就業規則違反に当たらないので、懲戒処分を行うことはできません

  3. (3)懲戒権の濫用に要注意|重すぎる懲戒処分は無効

    無断欠勤や不合理な理由による欠勤など、従業員の欠勤が就業規則違反に当たる場合でも、懲戒処分を行うに当たっては懲戒権または解雇権の濫用に当たらないように注意しなければなりません。

    労働者の行為の性質・態様に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒処分は、懲戒権または解雇権の濫用として無効となります(労働契約法第15条、第16条)。
    たとえば、無断欠勤を1回したことだけを理由に、従業員を懲戒解雇した場合には、懲戒権・解雇権の濫用として無効となる可能性が高いです。

    従業員に対する懲戒処分の種類や重さは、欠勤理由の悪質性や欠勤の頻度など、従業員の行為の性質・態様を考慮した上で慎重に決定しましょう

  4. (4)軽い懲戒処分から段階的に行うべき|並行して改善指導も

    懲戒権・解雇権の濫用を防ぐには、軽い懲戒処分から段階的に行うことをおすすめします。

    たとえば、まずは戒告や譴責(けんせき)などの軽い懲戒処分を行い、無断欠勤や不合理な理由による欠勤が続くようであれば、減給、出勤停止などの重い懲戒処分を行いましょう。

    軽い懲戒処分を受けても問題行動を改めなかったという事実があれば、重い懲戒処分を正当化しやすくなります。

    また、懲戒処分を段階的に行うのと並行して、従業員に対して無断欠勤や不合理な理由による欠勤を改めるよう改善指導を行いましょう。粘り強く改善指導を行ってもなお、従業員の行動が改善されなかったのであれば、重い懲戒処分も適法と認められやすくなります。

  5. (5)欠勤が多いことを理由とする普通解雇の可否

    欠勤が多い従業員については、懲戒解雇ではなく普通解雇をすることも考えられます。普通解雇を行うには、労働契約または就業規則で定められた解雇事由に該当することが必要です

    たとえば「欠勤が○週間以上続いた場合」「正当な理由なく○回以上欠勤した場合」などの解雇事由が定められていれば、それに基づく普通解雇を検討しましょう。

    ただし、普通解雇についても解雇権濫用の法理が適用されます。客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない普通解雇は、解雇権の濫用として無効です(労働契約法第16条)。

    たとえば、解雇事由として定められている欠勤の期間が短すぎる場合は、普通解雇が無効と判断されるおそれがあるのでご注意ください。

4、従業員(労働者)とのトラブルは弁護士に相談を

遅刻や休みが多い従業員への対応に苦慮しているなど、従業員とのトラブルにお悩みの企業は、弁護士に相談することをおすすめします

弁護士は、各種労働法の規定を踏まえた上で、会社にとってリスクが少ない形でトラブルを解決できるようにサポートいたします。
懲戒処分や退職勧奨、従業員による請求への対応等についても、弁護士が適切な方針をアドバイスするとともに、状況次第では代理でご対応いたします。

従業員とのトラブルが深刻化する前に、早い段階で弁護士へご相談ください。

5、まとめ

体調不良を理由とする欠勤が多い従業員については、本人とコミュニケーションをとりつつ、状況に合わせて対応方針を決めましょう。

懲戒処分・退職勧奨・普通解雇などを行うことも考えられますが、会社としてもリスクを負うことになるので、あらかじめ弁護士に相談することをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所は、従業員とのトラブルに関する企業のご相談を随時受け付けております。従業員との協議や労働審判・訴訟などの法的手続きへの対応についても、法務トラブルの解決実績がある弁護士にお任せいただければ安心です。

従業員とのトラブルにお悩みの企業は、まずはベリーベスト法律事務所 池袋オフィスにご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています