育児介護休業法に罰則はあるのか。違反を指摘されたらどうする?

2023年05月09日
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育児介護休業法に罰則はあるのか。違反を指摘されたらどうする?

東京都が発表した、令和3年度の東京都男女雇用平等参画状況調査によると、育児休業取得率は、女性は96%だったことに対し、男性は23.8%でした。男性の取得率は、前年度の調査よりも9.3%増加しましたが、育休取得に関して男女間で大きな差があるのが現状です。

こうした状況を踏まえ、令和3年6月、「産後パパ育休」を創設するなどの育児介護休業法が改正され、令和4年10月1日から施行されました。この改正の目的は、出産や育児などによって、従業員が退職せざるを得なくなることを防ぎ、希望があれば、男女ともに仕事と育児を両立できるようにすることとされています。

自社の従業員から育休を取得したいと言われたとき、企業はどのような対応を取ることが求められるのか分からないという方も多いかもしれません。また、仕事への影響が大きい場合は断ることは可能なのか、断った場合にどのような罰則があるのでしょうか。本コラムでは、改正育児介護休業法について、ベリーベスト法律事務所 池袋オフィスの弁護士が解説します。

1、育児介護休業法に違反した場合の行政指導や罰則

企業が育児休業法に違反した場合、どのような行政指導や罰則があるのでしょうか。

  1. (1)育児介護休業法とは?

    育児介護休業法は、育児と仕事を両立させるための制度などについて定めた労働者保護を目的とする法律で、近年、大きな改正が行われています。

    平成29年1月1日には、上司や同僚からの育休に関する言動によって育休取得者の就業環境が害されることがないよう、企業に防止措置を義務付ける改正育児介護休業法が施行されました。

    そして、令和4年4月1日からは、主に次の内容を盛り込んだ改正育児介護休業法が段階的に施行されています。

    制度 内容 施行日
    雇用環境整備および個別周知・意向確認 妊娠・出産(本人又は配偶者)の申し出をした労働者に対して事業主から個別の制度周知および休業の取得意向の確認 令和4年4月1日
    有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和 「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」であることという取得要件を廃止
    産後パパ育休(出生時育児休業)の創設 子の出生後8週間以内に4週間まで取得可能 令和4年10月1日
    育児休業の分割取得 分割して2回まで育休取得が可能
    育児休業等の取得状況の公表(大企業のみ対象) 育休の取得状況について公表を義務付け 令和5年4月1日
  2. (2)育児介護休業法に定められた行政指導や罰則は?

    企業は、従業員から育休を取得したいとの申し出があれば、拒否することができないのが原則です
    育休取得の申し出を適法に拒否できるのは、次のいずれかの従業員について育児休業をすることができないことを定めた労使協定があるときだけに限定されています。

    • 企業に継続して雇用された期間が1年に満たない従業員
    • 育休の申出の日から1年以内に雇用関係が終了することが明らかな従業員
    • 1週間の所定労働日数が2日以下の従業員


    また、育休の申し出・取得、妊娠・出産の申し出、産後パパ育休の申し出・取得、産後パパ育休期間中の業務に同意しなかったことなどを理由とする不利益取扱いは禁止されており、企業は、上司や同僚によるハラスメントを防止する措置が義務付けられています。
    禁止されている「不利益取扱い」には、次のようなものなどが該当します。

    • 解雇
    • 降格
    • 業務に従事させないなど就業環境を害すること
    • 自宅待機命令
    • 減給
    • 賞与(ボーナス)の不利益
    • 人事考課の不利益な評価
    • 不利益な配置変更
    • 有期雇用労働者の契約不更新
    • 労働契約の不利な内容への変更


    厚生労働大臣や都道府県労働局長は、必要があると判断した場合、企業に対して報告を求めたり、行政指導として助言・指導・勧告を行ったりすることが可能です。また、育児介護休業法の定めに違反している企業に対して、勧告をしたにもかかわらず、企業が勧告に従わなかったときには、その旨を公表することができるとされています。
    さらに、必要があると認めるときは、企業に対して報告を求めることができることとされており、この報告の求めに対して、報告をしなかったり、虚偽の報告をしたりした場合には、20 万円以下の過料に処するという罰則があります。

    コンプライアンス順守が強く求められている社会において、法違反や行政の求めに対して不誠実な対応を取ったことが公表されれば、企業イメージや企業価値が低下し、人材募集に悪影響が出たり、将来にわたって大きな経済的損失を被ったりしてしまうリスクがあるといえるでしょう。

2、育児介護休業法で従業員とトラブルになった場合の対応法

  1. (1)従業員との話し合いが基本

    育休取得などの人事労務に関して従業員とトラブルになった場合、まずは従業員と話し合いを重ね、お互いの事情を理解し合うことを優先しなければなりません。育児介護休業法においても、自主的な解決を図るべきことが定められています。

    苦情の自主的な解決を図るための方法としては、次のようなものが考えられます。

    • 上司による相談
    • 人事担当者による相談
    • 職業家庭両立推進者を選任している場合や、労使双方で構成する苦情処理機関を設置している場合には、これらの活用
  2. (2)行政による勧告や調停

    育児介護休業法では、トラブルの当事者である従業員・企業のいずれか一方から、解決について援助を求められた場合には、都道府県労働局長が助言・指導・勧告を行うことが可能です。

    また、都道府県労働局長は、トラブルの当事者である従業員・企業のいずれか一方から調停の申請があり、トラブル解決のために必要であると認めた場合には、外部専門家で構成される第三者機関である「両立支援調停会議」に調停を行わせることができるとの定めも置かれています。
    この「両立支援調停会議」は、必要に応じて当事者や参考人から意見を聞いた上で、調停案を作成し、トラブルの当事者に対して受諾の勧告を行うことができます。

    企業は、従業員が上記の援助を求めたことや調停の申請を行ったことを理由として、ハラスメント行為を行ったり解雇したりといった不利益な取扱いをしてはならないとされている点には注意が必要です。

  3. (3)労働組合との団体交渉が行われる可能性もある

    このほかにも、企業の中の労働組合や外部の合同労組(ユニオン)から、従業員の育休取得について団体交渉を行うよう申し入れを受けることも考えられます。労働組合から団体交渉の申し入れを受ければ、企業は、これに応じ、誠実に交渉しなければならないことが原則とされています。

    団体交渉を行ったからといって、必ずしも労働組合の要求を全て受け入れなければならないわけではありませんが、育休を取得させることができないのであれば、その理由を十分に説明する必要があります

3、今後の人事労務関連で予定されている法令とは

育児介護休業法のほかにも、人事労務関係では、今後、次の法令の改正・施行が予定されています。

働き方改革関連法の段階的施行
令和5年4月には、残業(時間外労働)についての割増賃金の変更が、中小企業にも適用されます。これにより中小企業においても、月60時間を超える残業に対して、50%以上の割増賃金の支払いが必要となります。

雇用保険法の改正
令和7年4月からは、雇用保険から給付される高年齢者雇用継続給付金について、最大給付率が15%から10%に引き下げられます。
その後も段階的に縮小され、最終的には廃止することが決まりましたので、高年齢者雇用継続給付金を受給している従業員がいる企業は、今後の動向に注目することが必要です。

このように、人事労務関係の法令は、社会の変化に合わせて常に変化していくため、企業は、これらの変化にしっかり対応し、これに応じた職場環境を構築していかなければなりません
今後改正・施行される法令に注意を払い、必要な社内規定の整備や内部体制の構築などを行い、コンプライアンスを順守した継続的な企業活動を進めていきましょう。

4、人事労務分野で弁護士ができること

  1. (1)交渉や裁判を一任できる

    従業員との間で起こってしまったトラブルは、対応を誤ってしまうと労働審判や裁判などに発展するおそれもあります。このような事態に至ってしまった場合、通常業務に加えて裁判手続きにも対応しなければならず、会社としても極めて大きな負担が生じます。
    このような場合には、弁護士に対応を依頼し、手続きの全てを任せることが適切でしょう。

    また、弁護士は企業の代理人として、従業員との交渉や労働組合との団体交渉への出席をすることができるため、早い段階で弁護士に相談していれば、トラブルの早期解決も見込めます

  2. (2)再発防止サポートも可能

    トラブルの原因が自社の労務管理体制にあった場合には、弁護士と共に改革を行い、再発防止策を講じることを検討する必要もあります
    弁護士は、企業の内部事情や事業内容などを踏まえて、コンプライアンス順守と効率的な業務運営の両立を実現するための専門的なサポートを行います。
    自社の労務管理体制の整備・改革・さらなる改善を検討中の企業経営者・担当者の方は、ぜひ一度、弁護士にご相談ください。

5、まとめ

職場環境が整っていて仕事と育児の両立がしやすいと、従業員だけでなく、企業にとっても優秀な人材の確保や育成、定着につながるなどのメリットがあります。社会の動きや変化に合わせて対応し、法令を順守した企業活動を心がけることで、企業の継続的な成長にもつながるでしょう。

本コラムでお伝えしたように、労働関係に関する法令は、短い期間で頻繁に改正が行われるため、法改正への対応が遅れてしまうと罰則が科されたり、法違反を公表されたりするリスクがあります。企業イメージに大きなダメージを受けるリスクを無くすためにも、常に最新の法令をチェックし、コンプライアンスを順守することが必要です。

自社内部での対応だけでは漏れや不足が生じる可能性がありますので、顧問弁護士を検討し、継続的に弁護士に相談することのできる体制の構築をおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、経験豊富な弁護士が在籍しており、グループに社会保険労務士も所属しています。
育児休業法についてお悩みの方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 池袋オフィスまでご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています