取締役は会社に対して会社法上どのような責任を負う? その範囲は?

2023年12月19日
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取締役は会社に対して会社法上どのような責任を負う? その範囲は?

会社の取締役は、会社の内外に対し、さまざまな法的責任を負っています。

本コラムでは、その中で、取締役が負う会社法上の責任について、ベリーベスト法律事務所 池袋オフィスの弁護士が解説いたします。

1、取締役の責任|会社に対するもの

  1. (1)任務懈怠責任

    取締役が任務を怠ったことが原因で会社に損害が発生した場合には、取締役は会社に対し、その損害を賠償する責任を負います(会社法第423条第1項)。
    この責任のことを「任務懈怠(にんむけたい)責任」といいます。
    任務懈怠にあたるかどうかが問題となる取締役の行為はさまざまであり、実際に裁判例で問題になる行為も多種多様です。
    大きく分けると、任務懈怠には「善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)または忠実義務に違反した場合(抽象的法令違反)」と「具体的な法令に違反した場合(具体的法令違反)」の二種類が存在します。

    • 抽象的法令違反

    取締役は、会社に対して「善管注意義務」(会社法第330条、民法第644条)や「忠実義務」(会社法第355条)を負っています。
    このような抽象的な善管注意義務や忠実義務に違反したといえるような場合、任務懈怠があったということになります。

    抽象的法令違反は、取締役が経営判断を行う局面において問題となりやすいものです。
    たとえば、取締役が会社の経営上、投資判断をしたものの、結果、その投資が失敗に終わったというケースを想定してみましょう。
    取締役が結果からみると判断として誤りとなってしまい、会社に損害を与えることもあり得ますが、「会社に損害を負わせることは常に善管注意義務違反である」として責任を負わせてしまうと、取締役は過剰に責任を負うことになりかねません。
    また、投資判断に対する結果責任を負わされるとなると、取締役としてはリスクをとって積極的な経営判断をすることをためらうことになるため、会社にとっても長期的には不利益になります。

    このような事情を考慮して、裁判所では「経営判断の原則」という考え方に基づいて善管注意義務に違反するか否かの判断がなされています。

    経営判断の原則
    経営判断については、取締役に裁量が認められるので、経営判断当時の状況に照らして、情報収集を含む判断に至るまでの過程に不注意がないか、または判断内容に著しく不合理な点がないかといった点から、注意義務違反となるか否かを検討する判断枠組み。


    なお、抽象的法令違反は、経営判断のほかにも監視・監督義務および内部統制構築義務などについて問題になる場合があります。

    • 具体的法令違反

    具体的法令違反には、何らかの法令に違反する行為が該当します。
    大きく分けると、「行為自体が禁止されているもの」または「法律で要求された手続を経ないことが禁止されているもの」の二種類となります。

    前者の具体例としては「独禁法におけるカルテル禁止規定に反するような行為」、後者の具体例としては「重要な業務執行の決定を、取締役会決議を経ないで行うこと」や「会社法上、株主総会で決議すべきとされている事項につき株主総会の決議を経ずに行うこと」があります。

    また、「具体的法令違反」における「法令」には、法律だけでなく政令や条例が含まれるほか、外国の法令も含まれると裁判例上は考えられています。 抽象的法令違反の場合に比べて、具体的法令違反のケースについては、取締役の任務懈怠責任は認められやすい傾向にあるといえます。

  2. (2)その他の責任

    任務懈怠のほかにも、会社法上、取締役が会社に対して責任を負う場合がいくつか規定されています。

    たとえば、会社法第120条第1項の規定に違反して、株主に対し株主としての権利行使に関して利益供与をした場合には、利益供与に関与した取締役は会社に対して連帯して供与された利益の価額に相当する額を支払う義務を負うとされています(同条第4項)。
    また、現物出資や仮装の払い込み、剰余金の配当、自己株式の取得などに関しても、取締役が会社に対して、会社財産を損ねた分を補填するといった責任を負うことが、会社法で定められているのです。

2、取締役の責任|第三者に対するもの

以下では、会社以外の第三者に対して取締役が負う責任に関して、会社法第429条の概要を解説します。

  1. (1)会社法第429条

    会社法第429条第1項では、取締役がその職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負うものとして「対第三者責任」を定めています。

    この規定は、株式会社が経済社会において重要な地位を占めており、しかも株式会社の活動はその機関である取締役らの職務執行に依存するものであることから、第三者を保護する目的で定められています。

  2. (2)要件

    対第三者責任が認められる要件は、下記の通りです。

    1. ① 悪意または重大な過失:取締役の任務懈怠行為について、取締役に悪意または重大な過失があること。
    2. ② 第三者:損害を受けた第三者がいること。
    3. ③ 相当因果関係および損害:取締役の任務懈怠行為と第三者の損害との間に、相当因果関係があること。


    なお、取締役の任務懈怠行為によって直接に第三者が損害を被った場合(いわゆる直接損害)のみならず、取締役の任務懈怠行為によって会社が損害を被った結果として第三者に損害が生じた場合(いわゆる間接損害)であっても、任務懈怠行為とそのような損害との間に相当因果関係が認められる範囲で、取締役は第三者に対して損害賠償責任を負います。

3、時効はある? 責任が免除されるケース

以下では、取締役が会社や第三者に対して負う損害賠償責任が免除される場合について解説します。

  1. (1)時効

    取締役の負う損害賠償責任は、以下のような期間内に債権者が権利を行使しなかった場合には、時効によって消滅します

    • 債権者(第三者または現実に会社を代表して取締役への請求権を行使する他の取締役や監査役など)が、権利を行使できることを知った時点(主観的起算点)から5年間
    • 権利を行使することができる時点(客観的に行使が可能となる客観的起算点)から10年間
  2. (2)免除

    取締役が会社に対して負う任務懈怠責任(会社法第423条)は、原則として、総株主の同意がなければ免除することができません。
    しかし、とくに上場会社では、総株主の同意を得ることは実際上不可能です。
    そのため、会社法では、任務懈怠責任について、一定の要件のもとに一部免除を認めています
    なお、それぞれの免除に関して、取締役が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないことが必要になります。

    • 株主総会決議による免除
      取締役が賠償の責任を負う額から最低責任限度額を控除した額を限度として、株主総会の決議(特別決議)によって免除することができます。

    • 取締役会決議等による一部免除
      監査役設置会社(取締役が2人以上ある場合に限る)等の会社は、とくに必要と認める場合には、取締役が賠償の責任を負う額から最低責任限度額を控除した額を限度として、取締役会の決議等によって、取締役の責任を免除することができる旨を定款で定めることができ、この規定に基づいて一部免除が行われることがあります。

    • 責任限定契約
      会社は、業務執行取締役等以外の取締役との間で、「任務懈怠責任について、定款で定めた額の範囲内であらかじめ会社が定めた額または最低責任限度額の内いずれか高い額を取締役の賠償額の上限額とする」旨の契約を締結することができることを、定款で定めることができます。
  3. (3)その他

    免除ではありませんが、取締役が賠償義務を負う場合にその支払いを担保するものとして、会社が取締役との間で補償契約を締結したり、会社が取締役のために役員等賠償責任保険(D&O保険)に加入したりしていることもあります。

4、取締役に対して責任を追及したい場合

  1. (1)第三者責任の場合

    会社法第429条に基づいて第三者が責任追及する場合には、当該取締役に対して、第三者自身で損害の賠償請求を行うことができます

  2. (2)対会社責任の場合

    基本的には、会社に対して生じた損害である以上は、会社そのものが取締役に対して責任追及を行います。
    実際に、会社法には会社が取締役の責任を追及する場合を前提にした規定もあります。

    ただし、責任を追及されることになる取締役と他の役員とが癒着関係にあるといった理由から、会社から取締役に対する積極的な責任追及が期待できない場合もあります。
    そのため、会社法では、所定の手続きを経ることで一定の要件を満たす個々の株主が会社の有する権利を会社のために行使して取締役の責任を追及することが認められています(株主代表訴訟)。

5、まとめ

会社法では、会社の取締役の責任については対会社責任や対第三者責任などが定められています。
また、取締役が負った責任を免除する規定も定められています。

企業の経営者や担当者の方、または株主の方で、取締役の責任を追及したいと希望されている場合には、まずはベリーベスト法律事務にご相談ください。
取締役が会社法上負う責任やその免除に関する会社法の複雑な規定についてもしっかりと理解した弁護士が、責任追及のための適切な対応を実施いたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています