臨床法務とはどんなこと? 顧問弁護士を雇うべき理由
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2022年(令和3年)10~12月に東京都豊島区で新設された法人は319件でした。
企業が安定的に成長を続けていくためには、法務体制を万全にしてリスク管理を行うことが大切です。企業法務の内容を、「臨床法務」「予防法務」「戦略法務」の三つに大別する考えがあります。そのなかでも臨床法務は、実際にトラブルが生じた場面において会社の損害を最小限に食い止めるという点で、重要性の高い業務といえます。
本コラムでは「臨床法務」について、予防法務や戦略法務との違いや対応の具体例などを、ベリーベスト法律事務所 池袋オフィスの弁護士が解説します。
1、臨床法務とは
「臨床法務」とは、企業が実際に法律上のトラブルに巻き込まれた場合において、損害を最小限に食い止めることを目的として行われる法務のことをいいます。
企業は営業活動を行うなかで、契約違反や不法行為など、さまざまな法律上のトラブルに巻き込まれるリスクを負っています。
トラブルに伴う会社の損害を最小限に抑えるため、顧問弁護士などと協力して必要な対応を行うことが、臨床法務担当者の役割です。
2、臨床法務と予防法務・戦略法務の違い
企業における法務には、臨床法務のほかに「予防法務」と「戦略法務」があります。
臨床法務と予防法務・戦略法務は、取り扱う業務の領域・段階が異なります。
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(1)予防法務とは
「予防法務」とは、将来発生し得る法律上のトラブルを未然に防ぐことを目的とした法務です。
たとえば、企業がこれから締結する契約書のチェック(契約書審査・契約法務)は、予防法務業務の典型例です。不備のない契約書を作成することや、自社にとって不利益な契約条項の修正を求めることは、将来的な法律上のトラブルによる損害の予防につながります。
また、社内規程の整備や行政機関への相談・確認なども、予防法務の一環として位置付けられます。
臨床法務は実際にトラブルが発生した状況を取り扱うのに対して、予防法務はまだトラブルが生じていない平時から取り組む必要がある点が異なるのです。 -
(2)戦略法務とは
「戦略法務」とは、会社経営上の積極的な施策を、法的な観点から支援することを目的とした法務です。
たとえば新規事業を立ち上げる際には、どのような法規制が適用されるのかを検討したうえで、必要な社内体制を整備しなければなりません。
事業の内容によっては、行政機関の許認可を要することもあります。
また、新規の取引先との間で締結する契約の内容も、ゼロベースで検討すべきケースが多いです。
こうした法律上の対応については、戦略法務担当者が法的知識と経験を基にサポートすることが期待されます。
そのほかにも海外進出やM&Aなど、多角的な法的検討を要する新たな取り組みを行う際には、戦略法務の役割が非常に重要になります。
戦略法務は、基本的に平時の法務であるため、予防法務と領域が重なる部分もあります。その一方で臨床法務は、トラブルが発生した状況における有事の法務であるため、戦略法務とはその業務領域や段階が異なっています。
3、臨床法務の具体例
臨床法務担当者が行うべき対応としては、以下の例が挙げられます。
これらのほかにも、企業が法律上のトラブルに巻き込まれた場合は、その都度事案を分析したうえで、適切な対応を行わなければなりません。
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(1)契約トラブルへの対応
企業は取引先との間で、さまざまな種類の契約を締結します。
取引の過程でトラブルが発生した場合は、契約書の定めに従って対応することになります。
臨床法務担当者は、契約トラブルが発生した際には、契約書の内容をチェックしたうえで、とり得る対応や会社にとってのリスクなどを検討しなければなりません。
臨床法務担当者の検討結果は、経営陣などの意思決定権者が判断を行う上で、重要な参考情報となります。
契約トラブルへの対応を誤ると、会社が巨額の損失を被ることになりかねません。
臨床法務担当者には、慎重な姿勢で検討や対応を行うことが求められます。 -
(2)従業員とのトラブル(労務トラブル)への対応
会社が雇用する従業員との間では、労働時間・残業代・解雇など、さまざまな種類の労務トラブルが生じる可能性があります。
労務トラブルへの対応も、臨床法務担当者の重要な役割です。
臨床法務担当者は労務トラブルについて、労働契約や就業規則の内容に加え、労働基準法や労働契約法などの労働法令を踏まえて対応を検討する必要があります。
労務トラブルへの対応を誤ると、労働者との紛争が長期化するだけでなく、多額の金銭請求を受けたり、会社が労働基準監督署による介入を受けるおそれが生じます。
臨床法務担当者には、労働者の要求の内容を検討したうえで、会社として受け入れるか否かを適切に判断するためのサポートが求められます。 -
(3)顧客のクレームへの対応
会社が顧客からクレームを受けた場合、どのように対応すべきかは、悩ましいところだといえます。
正当なクレームに対しては誠実に対応すべきですが、安易に譲歩すると増長されたり、SNSで対応を拡散されたりして、会社にとって不利益な事態を招くおそれがあります。
臨床法務担当者には、顧客のクレームの内容を検討したうえで、会社の対応によってどのようなリスクが生じるかを丁寧に分析して、意思決定権者にアドバイスすることが求められます。 -
(4)知的財産権侵害への対応
知的財産権の侵害は、企業が巻き込まれる頻度の高い法律トラブルのひとつです。
たとえば特許権・著作権・商標権などを侵害しているとして、他社から差し止めや損害賠償を請求されることがあります。
また、反対に自社の知的財産権に対する他社の侵害行為を発見したら、差し止めや損害賠償を行う必要もあります。
臨床法務担当者には、知的財産権に関する法律(特許法・著作権法・商標法など)の規定をふまえて、会社の対応方針やリスクを分析し、意思決定を助けることが求められます。 -
(5)行政処分・行政指導への対応
会社は事業の内容などに応じて、行政機関の監督を受けます。
たとえば宅地建物取引業者(不動産業者)であれば、宅地建物取引業法に基づき、国土交通大臣または都道府県知事による監督の対象となります。
証券会社であれば、金融商品取引法に基づき、金融庁による監督の対象です。
また労働者を雇用している企業は、労働基準法に基づき、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署の監督を受けることになります。
監督権限の根拠法令に違反した場合は、各行政機関によって行政処分や行政指導が行われる可能性があります。
会社が行政処分や行政指導を受けた場合は、さらに重大な行政処分等を避けるため、速やかに是正措置を講じなければなりません。
臨床法務担当者は、監督官庁との折衝を担当するほか、行政処分や行政指導の内容を踏まえて、社内体制や業務の遂行方法の改善を指導する役割を担います。
たとえば、社内規程や業務マニュアルの見直し、役員や従業員に対する注意喚起および研修など、法令違反等の再発を防ぐためにさまざまな角度から改善措置を講じることが求められるのです。 -
(6)訴訟対応
会社が訴訟の当事者となった場合は、臨床法務担当者が訴訟対応における中心的な役割を担います。
具体的には、訴訟代理人となる弁護士と、社内の意思決定権者(取締役など)の間の意思疎通をサポートします。
まず訴訟代理人となる弁護士を選定したうえで、事案の内容を共有し、訴訟対応の方針についてアドバイスを求めます。
弁護士のアドバイスは社内に持ち帰り、必要に応じて臨床法務担当者の見解も付した上で、社内の意思決定権者に共有します。
また、訴訟代理人弁護士と社内の意思決定権者のミーティングをセットし、臨床法務担当者も同席したうえで、訴訟対応の方針を話し合う場合もあります。
社内の意思決定権者が、弁護士の法的な見解を十分に理解したうえで、会社としての意思決定を適切に行うことができるようにサポートすることが、訴訟対応における臨床法務担当者の役割となります。
4、臨床法務は顧問弁護士にご相談を
臨床法務は、法務部門と弁護士が協力して行うことが大切です。
法的知見を持ちつつ社内事情に精通した法務部員が、高い専門性を持つ弁護士と協働することにより、トラブルに起因する会社の損害を最小限に抑えられます。
顧問弁護士と契約すれば、実際にトラブルが発生した際に、普段予防法務や戦略法務で用意していた内容を踏まえて、臨床法務の対応を行うことができます。
企業の経営者で、「臨床法務体制を整えたい」と考えている方は、顧問弁護士との契約をご検討ください。
5、まとめ
臨床法務は、企業をトラブルによる損害から守るための重要な業務です。
法務部門を充実させるとともに、顧問弁護士と契約して、万全の臨床法務体制を整えましょう。
ベリーベスト法律事務所は、企業法務に関するご相談を随時受け付けております。
臨床法務・予防法務・戦略法務の各観点から、企業コンプライアンスの強化を幅広くサポートいたします。
顧問弁護士サービスもご提供しており、ニーズに合わせてご利用いただけます。
臨床法務機能を強化したいとお考えの場合には、まずは、企業法務のサポートが充実しているベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています