グリーン車のタダ乗りは犯罪?|問われる罪と刑罰

2024年05月13日
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グリーン車のタダ乗りは犯罪?|問われる罪と刑罰

東京などの首都圏を走る普通列車では、ゆったりとした座席で快適な移動が可能な「グリーン車」と呼ばれる車両が存在します。このようなグリーン車に乗車する場合には、乗車券のほかにグリーン券という特別なきっぷが必要になります。

しかし、グリーン車を利用する乗客の中には、グリーン券を所持せずに不正にグリーン車を利用している乗客もいるようです。このようなグリーン車のタダ乗りをしてしまった場合には、どのような刑罰が科されるのでしょうか。

今回は、グリーン車のタダ乗りにより成立する犯罪とその刑罰について、ベリーベスト法律事務所 池袋オフィスの弁護士が解説します。

1、グリーン車のタダ乗りは社会問題になっている

グリーン車とはどのような車両なのでしょうか。また、グリーン車のタダ乗りとは、どのような行為なのでしょうか。以下で詳しく説明します。

  1. (1)グリーン車とは

    グリーン車とは、通常の運賃や急行・特急料金以外に別途料金が発生する特別な車両をいいます。グリーン車では、普通の車両に比べて座席がゆったりとしており、コンセントや無料Wi-Fiが利用できるなどさまざまなメリットがあります。そのため、グリーン車は、少しでも快適に移動をしたいという人に利用されている車両といえるでしょう。

  2. (2)社会問題となっているグリーン車のタダ乗りとは

    グリーン車に乗車する際には、乗車券とは別にグリーン券が必要になります。グリーン車のタダ乗りとは、このグリーン券を購入することになく、グリーン車に乗車する行為をいいます
    グリーン券の有無は、グリーンアテンダントと呼ばれる乗務員が、車内改札により確認を行っています。しかし、駅間によってはグリーンアテンダントが見回りに来ないこともありますので、車内改札の隙をついてグリーン車のタダ乗りが行われています。定期的に車内改札を行えばよいですが、グリーンアテンダントの人手不足や予算の問題などから、十分な人手を確保することができず、グリーン車のタダ乗りは、鉄道会社も頭を悩ます社会問題となっています。

2、電車のタダ乗りは「鉄道営業法違反」などの罪に問われる

グリーン車のタダ乗りは、どのような罪に問われるのでしょうか。

  1. (1)鉄道営業法違反

    グリーン車に乗るためには、通常の乗車券だけでなくグリーン券という特別なきっぷが必要になります。このようなグリーン券を購入することなく、グリーン車に乗車する行為は、乗車券に指示された車両よりも優等な車両に乗車する場合に該当しますので、鉄道営業法29条2号に違反する行為となります。
    鉄道営業法29条に違反した場合には、50円以下の罰金または科料に処せられることになります。「50円以下の罰金」というと非常に軽い刑罰だと感じる方もいるかもしれません。しかし、これは鉄道営業法が制定された明治33年当時の物価を前提としたまま、改正がなされていないことによるものであり実際には、罰金等臨時特措法2条により、「2万円以下の罰金」が科されます。
    なお、鉄道営業法違反は、親告罪とされていますので、鉄道営業法違反で処罰されるためには、鉄道会社からの申告が必要になります(鉄道営業法32条の2)。

  2. (2)建造物侵入罪

    建造物侵入罪とは、管理権者の意思に反して住居及び邸宅以外の人の看守する建造物に立ち入る行為をいいます(刑法130条)。電車に乗るために駅に立ち入る行為は、管理賢者である鉄道会社が予定しているものであり、通常は適法な行為として、建造物侵入罪が成立することはありません。
    しかし、グリーン車のタダ乗りをする目的で駅に立ち入る行為は、鉄道会社が予定する立ち入りの態様ではなく、鉄道会社の意思に反する立入りとして、違法な立ち入りと判断される可能性があります。そのため、グリーン車のタダ乗り目的での駅への立ち入りは、建造物侵入罪に問われるおそれがあります
    なお、建造物侵入罪が成立した場合、3年以下の懲役または10万円以下の罰金に処せられます。

  3. (3)詐欺罪や電子計算機使用詐欺罪は成立する?

    詐欺罪とは、人を欺いて不法に経済的利益を得る犯罪です。
    また、電子計算機使用詐欺罪とは、事務処理に使用する電子計算機に対し、虚偽の情報または不正な指令を与えて、財産権の得喪・変更に関する不実の電磁的記録を作るなどの手段で、不法に財産上の利益を得る犯罪です(刑法246条の2)。
    すなわち、一般的な詐欺罪は、人をだまして財産を得ることを内容とする犯罪であるのに対して、電子計算機使用詐欺罪は、機械をだまして財産を得ることを内容とする犯罪です。

    電車に乗る際には、改札口を通り抜ける必要があります。その際には、有人改札であれば駅員に乗車券を提示し、無人改札であれば改札機を通して改札処理を行います。キセル乗車などの不正乗車であれば、改札口を通過する際に詐欺罪ないし電子計算機使用詐欺罪に該当する行為がありますので、詐欺罪または電子計算機使用詐欺罪が成立する可能性があります。

    しかし、グリーン車のタダ乗りでは、改札口ではグリーン券の提示は必要ありませんので、改札口通過の時点では詐欺罪ないし電子計算機使用詐欺財に該当する行為がなく、詐欺罪または電子計算機使用詐欺罪は成立しません。
    また、グリーン車の車内改札が来る前に電車を降りてしまった場合にも欺罔(ぎもう)行為がなく、詐欺罪は成立しません。

    そのため、グリーン車のタダ乗りでは、詐欺罪や電子計算機使用詐欺罪は、成立する可能性は低いでしょう

3、タダ乗りで逮捕される可能性

グリーン車のタダ乗りをした場合、逮捕される可能性はあるのでしょうか。

  1. (1)タダ乗りが発覚した際の状況次第では逮捕の可能性もある

    グリーン車のタダ乗りが発覚した場合には、車内改札の際に、グリーン券の購入を求められます。グリーン券の購入に応じれば、鉄道会社としても損害が生じてはいませんので、それ以上の処罰を求めることはないでしょう。
    しかし、グリーン車のタダ乗りが発覚した際に、その場から逃亡したり、駅員を押し倒すなどの暴行を加えた場合には、警察に通報されて、現行犯逮捕に至る可能性もあります。また、現行犯逮捕に至らないケースであっても、グリーン車のタダ乗りを頻繁に繰り返しているような場合には、鉄道会社からマークされ、後日逮捕される可能性もあります。
    このようにグリーン車のタダ乗りの頻度や態様によっては、逮捕される可能性も十分にある犯罪といえます。

  2. (2)グリーン車のタダ乗りが発覚した場合の刑事事件の流れ

    グリーン車のタダ乗りが発覚した場合には、以下のような流れで刑事事件の手続きが進んでいきます。

    ① 身柄事件の場合
    グリーン車のタダ乗りにより逮捕された場合には、警察署の留置施設に身柄が拘束されます。逮捕による身柄拘束期間は、最大で72時間で、取り調べなどの捜査を受けることになります。逮捕による身体拘束期間中、逮捕から48時間以内に警察署で釈放手続きが取られない場合、さらに検察に身柄が送致され、送致から24時間以内に、勾留請求が行われる可能性があります。裁判所が勾留することを認めた場合には、最大で20日間(勾留延長含む)の身柄拘束が続きます。
    その後、勾留期間が満了する前に、検察官が事件を起訴するか不起訴にするかの判断を行います。事件が不起訴になれば、身柄が解放され、前科が付くこともありません。

    ② 在宅事件の場合
    警察に逮捕されなかったとしても、在宅事件として捜査が進められることがあります。身柄事件とは異なり、身柄拘束を受けることはありませんので、自由に行動することができます。しかし、警察や検察から取り調べのために呼び出しがなされた場合には、応じなければならず、呼び出しを無視していると逮捕される可能性もあります
    その後、必要な捜査が進められ、最終的に検察官より起訴または不起訴の処分が下されます。なお、身柄事件のように時間制限はありませんので、最終的な処分が出るまでには一定の時間がかかるケースが多いです。

4、タダ乗りで罪に問われたら弁護士に相談

グリーン車のタダ乗りで罪に問われた、または罪に問われる可能性がある方は、早めに弁護士に相談するようにしましょう。

  1. (1)示談により刑事責任の追及を回避できる

    グリーン車のタダ乗りで、主に成立する犯罪は、鉄道営業法違反になります。鉄道営業法違反は、親告罪とされていますので、鉄道会社からの申告がなければ処罰することができず、鉄道会社が告訴を取り下げてくれれば、刑事責任の追及を回避することができます。
    グリーン車のタダ乗りにより、鉄道会社にはグリーン料金相当額の財産的被害が発生していますので、鉄道会社との示談交渉により、被害弁償を行うことができれば、告訴を取り下げてもらえる可能性があります。弁護士であれば、被疑者本人に代わって鉄道会社との示談交渉を行うことができますので、本人が対応するよりも示談に応じてくれる可能性が高くなるでしょう

  2. (2)早期の釈放を目指すことができる

    グリーン車のタダ乗りで逮捕されてしまった場合、逮捕で最大72時間、勾留されてしまうと最大で20日間も身柄拘束が続くことになります。その間は、仕事や学校にも行くことができませんので、身柄拘束期間が長くなればなるほど不利益が大きくなってきます
    弁護士であれば、示談交渉や捜査機関への働きかけ、釈放後の監督体制の整備などにより早期の釈放を目指すことができます。身柄拘束による不利益を最小限に抑えるためにも、早めに弁護士に相談するようにしましょう。

5、まとめ

グリーン車のタダ乗りは、鉄道営業法違反などの犯罪行為に該当しますので、安易な気持ちで行うのは避けるべきです。タダ乗りが発覚した際の状況次第では、逮捕のおそれもありますので、すぐに鉄道会社との間で示談を行うことが大切です。

グリーン車のタダ乗りにより罪に問われそうな状況であれば、弁護士が本人に代わって示談交渉を行うことができますので、まずは、ベリーベスト法律事務所 池袋オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています