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医師の自己研鑽は残業代の対象? 未払い残業代の請求方法を解説

2025年05月19日
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医師の自己研鑽は残業代の対象? 未払い残業代の請求方法を解説

厚生労働省が令和4年に行った調査では、病院・常勤勤務医の21.2%が週60時間以上の時間外・休日労働をしていることが明らかになっています。

この長時間労働の中で、医師の「自己研鑽」の時間については、多くの医療機関で残業代が支払われていないのが現状です。しかし、法的な観点からは労働時間に該当し、残業代が発生するケースがあります。自己研鑽の取り扱いに疑問を持った医師の方は、弁護士にご相談ください。

本記事では、医師の自己研鑽が労働時間に当たるための要件や、未払い残業代の請求方法などを、ベリーベスト法律事務所 池袋オフィスの弁護士が解説します。

出典:「医師の勤務実態について」(厚生労働省)


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1、医師の自己研鑽は労働時間に当たる? 当たらない?

医師の「自己研鑽」に対しては、労働時間に当たらないものとして残業代を支払わない医療機関が多数となっています。このような状況は、一般企業の従業員における自己研鑽の扱いも同様の傾向にあるようです。

しかし法的な観点からは、自己研鑽であっても労働時間に該当し、残業代が発生することがあります。労働時間に当たる自己研鑽に対して全く残業代が支払われていないなら、未払い残業代請求を検討しましょう。

  1. (1)医師の自己研鑽とは

    「自己研鑽」とは、医師が自らの知識の習得や技能の向上を図るために行う学習や研究などです。単に「研鑽」と言うこともあります。

    たとえば、以下のような行為が自己研鑽に当たります。

    • 診療ガイドラインについての勉強
    • 新しい治療法や新薬についての勉強
    • 自らが術者等である手術や処置等についての予習や振り返り
    • シミュレーターを用いた手技の練習
    • 学会や外部の勉強会への参加、発表準備
    • 院内勉強会への参加、発表準備
    • 本来業務とは異なる臨床研究に係る診療データの整理、症例報告の作成、論文執筆
    • 大学院の受験勉強
    • 専門医の取得や更新に係る症例報告作成、講習会受講
    • 手術や処置等の見学
    など
  2. (2)医師の自己研鑽が労働時間に当たるための要件

    医師の自己研鑽が労働時間に当たるかどうかについては、厚生労働省の通達(令和元年7月1日基発0701第9号。以下「厚労省通達」といいます。)によって以下の考え方が示されています。

    ① 所定労働時間内に自己研鑽が行われる場合
    医師が使用者に指示された勤務場所(院内等)において自己研鑽を行う場合は、その時間が当然に労働時間に当たります。

    ② 所定労働時間外に自己研鑽が行われる場合
    上司の明示・黙示の指示によって行う自己研鑽は、所定労働時間外または本来業務との直接の関連性がない場合でも、労働時間に該当します。

    ただし、診療等の本来業務と直接の関連性がなく、かつ業務の遂行を指揮命令する職務上の地位にある者(=上司)の明示・黙示の指示によらない自己研鑽は、在院して行う場合も労働時間に該当しません。


    さらに厚労省通達では、上司の明示・黙示の指示によらず、医師が自発的に在院しながら自己研鑽を行うケースも少なくないと考えられることを指摘しています。

    このようなケースでは、主に「医師が本当に自由な意思で自己研鑽をしているのかどうか」と「本来業務と直接の関連性があるかどうか」の2点が労働時間該当性の判断基準です。
    次の項では、具体的な自己研鑽の内容ごとに、労働時間として認められるかどうかの基準を詳しく説明します。

2、労働時間に該当しない医師の自己研鑽の例

厚労省通達では、以下に挙げたような意図の自己研鑽は労働時間に該当しないとされています(第12回医師の働き方改革に関する検討「医師の研鑽と労働時間に関する考え方について」参照)。

  1. (1)業務上必須ではない勉強・練習

    • 診療ガイドラインについての勉強
    • 新しい治療法や新薬についての勉強
    • 自らが術者等である手術や処置等についての予習や振り返り
    • シミュレーターを用いた手技の練習


    上記のような勉強や練習のうち、業務上必須ではなく、自由な意思に基づき自ら申し出て、上司の明示・黙示による指示なく所定労働時間外に行うものについては、在院して行う場合でも労働時間に該当しません。

    ただし、診療の準備や診療に伴う後処理として不可欠である場合は、労働時間に該当します

  2. (2)学位や専門医を取得するための研究・論文作成

    • 学会や外部の勉強会への参加、発表準備等
    • 院内勉強会への参加、発表準備等
    • 本来業務とは異なる臨床研究に係る診療データの整理、症例報告の作成、論文執筆
    • 大学院の受験勉強
    • 専門医の取得・更新にかかる症例報告作成、講習会受講等


    学位や専門医を取得するための上記のような行為のうち、業務上必須ではなく、自由な意思に基づき自ら申し出て、上司の明示・黙示による指示なく所定労働時間外に行うものについては、在院して行う場合でも労働時間に該当しません。

    上司や先輩医師から奨励されている、勤務先医療機関が主催する勉強会であるが自由参加などの事情がある場合でも、自由な意思で自己研鑽が行われているのであれば、労働時間には該当しないと考えられます。

    ただし、以下のような場合については、研究や論文作成なども労働時間に該当します。

    • 自己研鑽を実施しないと、懲戒処分などの不利益を受ける場合
    • 業務上必須である場合
    • 業務上必須でなくとも、上司が明示または黙示の指示をして行わせる場合
  3. (3)自由な意思で行う奨励経験や上司・先輩が術者である手術・処置等の見学の機会を確保するために、当直シフト外で時間外に待機し、診療や見学を行うこと

    医師は知識や症例経験などを蓄積するため、所定労働時間外に手術や処置などを見学することがあります。

    所定労働時間外における手術等の見学のうち、業務上必須ではなく、自由な意思に基づき自ら申し出て、上司の明示・黙示による指示なく行うものについては、在院して行う場合でも労働時間に該当しません。
    上司や先輩医師から奨励されているなどの事情がある場合でも同様です。

    ただし、見学中に診療(手伝いを含みます)を行った場合には、その診療を行った時間は労働時間に該当します。
    また、見学中に診療(手伝いを含みます。)を行うことが慣習化・常態化している場合は、見学の時間すべてが労働時間に該当します。

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3、自己研鑽の残業代など、労働時間の問題を弁護士に相談するメリット

自己研鑽の時間に対して残業代が支払われていないなど、勤務先における待遇について疑問を持った医師の方は、弁護士に相談することをおすすめします。

医師が労働問題について弁護士に相談することには、主に以下のメリットがあります。

  • 自己研鑽が労働時間の対象となるかどうか、法的に判断してもらえる
  • 自己研鑽が残業に当たることを証明するため、有効な証拠を確保する方法についてアドバイスを受けられる
  • 未払い残業代を請求するに当たり、病院側との交渉や裁判手続きを一任できる
  • 法的根拠に基づく請求により、適正額の未払い残業代を回収できる可能性が高まる
  • 労力やストレスが軽減される
など


自己研鑽の時間について残業代を請求した医師の方は、お早めに弁護士へご相談ください。

4、未払い残業代の請求方法

労働時間に当たる自己研鑽の分を含めて、未払いとなっている残業代を請求する手続きの流れを紹介します。

  1. (1)残業の証拠を確保する

    まずは、以下のような残業の証拠を確保しましょう

    • タイムカード
    • 勤怠管理システムの記録
    • 上司の承認印がある業務日報など
    • オフィスの入退館記録
    • 会社システムへのアクセス記録
    • 自己研鑽を業務上指示する内容の、上司からのメールなど


    有力な客観的証拠をできる限り確保することが、未払い残業代請求の成功に繋がります。証拠収集の方法については、弁護士に相談すればアドバイスを受けられます。

  2. (2)未払い残業代を計算する

    確保した証拠に基づいて残業時間を集計した上で、以下の式によって残業代の額を計算します。

    残業代=1時間当たりの基礎賃金×割増率×残業時間数

    1時間当たりの基礎賃金=1か月の総賃金(以下の手当を除く)÷月平均所定労働時間
    <総賃金から除外される手当>
    • 残業手当(時間外労働手当、休日労働手当、深夜労働手当)
    • 家族手当(扶養人数に応じて支払うものに限る)
    • 通勤手当(通勤距離等に応じて支払うものに限る)
    • 別居手当
    • 子女教育手当
    • 住宅手当(住宅に要する費用に応じて支払うものに限る)
    • 臨時に支払われた賃金
    • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

    月平均所定労働時間=(365日-1年間の所定休日日数)×1日の所定労働時間÷12か月


    残業の種類 残業の概要 割増率
    法定内残業 所定労働時間を超え、法定労働時間を超えない残業 割増なし
    時間外労働 法定労働時間を超える残業 通常の賃金に対して125%
    ※月60時間を超える部分については、通常の賃金に対して150%
    休日労働 法定休日における労働 通常の賃金に対して135%
    深夜労働 午後10時から午前5時までに行われる労働 通常の賃金に対して125%

    計算した残業代の額から、すでに支払われた残業代の額を引くと、請求できる未払い残業代の額が分かります。

  3. (3)内容証明郵便で請求書を送付する

    上記の準備が整ったら、勤務先に対して未払い残業代を請求しましょう。

    請求に当たっては、以下の事項などを記載した内容証明郵便を送付するのが一般的です。これによって、勤務先に対して正式な請求である旨を伝えることができます。また、残業代請求権には3年という時効があり、内容証明郵便を送ることで消滅時効の成立を6か月間猶予することが可能です(民法第150条第1項)。

    • 請求する未払い残業代の額
    • 未払い残業代の支払期限
    • 支払わなければ、法的措置を講ずる旨
    など


    内容証明郵便に対して勤務先が返信してきたら、未払い残業代の精算に関する交渉を行います。合意が得られたら、その内容をまとめた書面を作成し、未払い残業代の支払いを受けましょう。

    内容証明郵便の送付や勤務先との交渉は、弁護士に依頼すれば代行してもらうことができます。

  4. (4)労働基準監督署に申告する

    勤務先が適切に残業代を支払わないときは、労働基準監督署への申告を検討しましょう(労働基準法第104条)

    申告を受けた労働基準監督署は、勤務先に対して臨検(立ち入り調査)を行うことがあります。違反が発見された場合は是正勧告がなされ、未払い残業代の支払いを受けられる可能性が高まります。

    労働基準監督署への申告は、正確に状況を伝えるため、書面で行うことをおすすめします。弁護士に依頼すれば、申告の準備や事情説明などのサポートが可能です。

  5. (5)労働審判や訴訟を検討する

    上記の対応がうまくいかなかった場合は、労働審判や訴訟などの法的手続きを利用して、未払い残業代の回収を図りましょう。

    労働審判や訴訟は専門性の高い手続きですが、弁護士にご依頼いただければスムーズな対応が可能です

5、まとめ

医師が行う勉強や、手術の練習、見学などの「自己研鑽」は、労働時間に当たらないものとして残業代が支払われないケースが多いです。
しかし、業務上必須である場合や上司に指示された場合などには、自己研鑽も労働時間に該当することがあります。残業代請求には時効があるため、自己研鑽について残業代が支払われていないことに疑問を持った方は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所 池袋オフィスは、残業代請求に関するご相談を随時受け付けておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています