マッチングアプリを利用したぼったくりの手口|被害に遭わないためには
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東京では歌舞伎町や池袋を中心にして、マッチングアプリを悪用した「ぼったくり」の被害が急増しています。具体的には、飲食店で働く女性従業員にマッチングアプリを使用させて知り合った男性に「前から行きたかった店がある」などと伝えて不当な代金を請求するぼったくり店に誘導する手口により、すでに数千万円単位の被害が発生していると報じられています。
令和5年(2023)4月には、この手口で男性客に不当な代金を請求したとして、バーの従業員ら男女16人が東京都の「ぼったくり防止条例違反」で逮捕されました。警察は捜査や摘発だけでなく繁華街での被害防止活動にも努めていますが、それでも被害は続いている状況です。
本コラムでは、マッチングアプリを悪用したぼったくり事件に適用される「ぼったくり防止条例」の内容や被害に遭ってしまったときの対策などを、ベリーベスト法律事務所 池袋オフィスの弁護士が解説します。
1、「ぼったくり防止条例」とは?どんな行為が違反になるのか?
まず、冒頭で紹介した事例でも適用された「ぼったくり防止条例」とはどんな条例であるか、具体的にどんな行為が違反となりどのような刑罰を受けるのかについて解説します。
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(1)ぼったくり防止条例とは?
ぼったくり防止条例とは、バーなど接待を伴う酒類提供の飲食店や性風俗店における不当行為などを規制する条例です。
令和5年5月時点で、とくに大きな繁華街をもつ東京・北海道・愛知・大阪・福岡など全8都道府県において施行されています。
ぼったくり防止条例という名称は通称で、東京都における正しい条例名は「性風俗営業等に係る不当な勧誘、料金の取立て等の規制に関する条例」です。 -
(2)ぼったくり防止条例で規制される行為
ぼったくり防止条例では、都道府県公安委員会が指定する「指定区域」において営業する「性風俗営業等」の店舗などを対象に、次の行為を規制しています。
- 公共の場所における不特定の者への客引きを受けた者を店舗内に立ち入らせる行為
- 客に見えやすいように料金を表示しない行為
- 実際よりも低料金で利用できるかのように誤認させたり、うそを伝えたりする客引き行為
- 客に対して粗野・乱暴な言動を交えて料金や違約金などを取り立てる行為
都内では、歌舞伎町一丁目~二丁目(4番から33番まで)、池袋一丁目~二丁目などが指定区域となっています。
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(3)ぼったくり防止条例の罰則
ぼったくり防止条例における規制行為や罰則は、都道府県によって異なります。 東京都における罰則は次のとおりです。
- 不当な勧誘、粗野・乱暴な料金の取立て行為……6か月以下の懲役または50万円以下の罰金
- 料金表示義務の違反……6か月以下の懲役または50万円以下の罰金
- 不当な客引きを受けた客を立ち入らせる行為……50万円以下の罰金
これらの罰則には、規制されている行為をはたらいた代表者や従業員に科せられるだけでなく、法人などにも同じ罪で罰金を科す「両罰規定」が設けられています。
したがって、「従業員が勝手にやった」という言い訳は通用しないのです。
また、違反行為があったときは公安委員会から再発防止に必要な「指示」を受けますが、これに違反すると営業停止処分を受けることになります。
2、ぼったくり被害に遭わないための対策と被害に遭ったときに取るべき行動
条例による規制があるとはいえ、ぼったくり被害は後を絶ちません。
以下では、ぼったくり被害を避けるために、実際にぼったくりに遭ったときに取るべき行動を解説します。
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(1)客引きは相手にしない
ぼったくりをする店舗の多くは、不当な客引きと連動しています。
たとえば、街頭で「1時間○○○円で飲み放題ですよ」と勧誘されて飲食したところ、数十万円単位の高額料金を請求されたといった典型的なケースを避けるには、客引きを相手にしないのが最善です。
また、冒頭で挙げた事例のように、街頭の客引きではなくマッチングアプリを悪用してぼったくりを警戒させない手口も横行しています。
ひと時の恋愛感情や性欲が大きな被害を招いてしまうので、知らない店に連れていかれて「怪しい」と感じたら身を引く心構えを忘れないでください。 -
(2)ぼったくり被害防止アプリなどを利用する
地域によっては、ぼったくり被害を防止するスマホアプリなどを利用することでも被害を回避できます。
たとえば、警視庁の防犯アプリ「Digi Police(デジポリス)」では、犯罪が多発しているエリアを通ると犯罪の発生情報が通知される仕様になっているので、とくに指定区域では役立つでしょう。
また、愛知県では「アイチポリス」というスマホアプリをリリースしています。
ぼったくり防止条例に違反した店舗の所在地なども表示する機能が実装されているので、被害を避けるためには大いに役立つと考えられます。 -
(3)ぼったくりの手口を理解しておく
ぼったくりの手口は巧妙化しています。
街頭での客引きが規制されるなら「ほかの方法で警戒心を解いて店舗に連れ込もう」と画策してくるので、自分自身でアンテナを張って最新の手口を理解しておいてください。
ニュースや新聞、インターネット、SNSなど、幅広いメディアから常に情報を集めておきましょう。 -
(4)「ぼったくりだ!」と感じたらただちに警察に通報する
そもそも、商品やサービス内容と料金に同意したうえでの注文でなければ、料金を支払う義務は発生しません。
つまり、法律上は、ぼったくりに遭っても支払う義務は存在しないのです。
ただし、ぼったくりを行うような反社会的な相手は、法律的な正しさを主張しても気にせずに、暴力や脅しといった行為によって圧力をかけてくるおそれがあります。
大切なお金を失ってしまうだけでなく、生命・身体にも危害がおよんでしまうので、ぼったくりだと気が付いたらただちに警察に通報しましょう。
その場を離れて通報するのが最善ですが、難しい場合はスマホなどをポケットに入れたまま緊急通報ボタンなどで110番通報してください。
こちらから説明しなくても、会話の内容から場所や状況を読み取って警察官が駆け付けてくれるでしょう。
3、ぼったくりを通報すれば警察が逮捕してくれる?
以下では、ぼったくりを警察に通報した場合、相手が逮捕されるのかどうかについて解説します。
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(1)不当な客引きなどがあれば条例違反で検挙できる
不当な客引きを受けて連れていかれた店舗でぼったくり被害に遭った場合は、ぼったくり防止条例違反としての検挙が期待できます。
そもそも、公共の場所における客引き行為や規制対象となる客引きを受けた客を入店させる行為は、迷惑防止条例やぼったくり防止条例の違反となります。
ぼったくりであるかどうかに関わらず、不当な客引き行為そのものが違法なので「しつこく付きまとわれて強引に入店させられた」といったケースは刑事事件になり得るでしょう。
もっとも、ただちに逮捕されるかどうかは、悪質性の高さや逃亡・証拠隠滅を防ぐ必要性などから判断されます。
「相手を捕まえてほしい」と主張しても、逮捕されず任意の在宅捜査になる可能性があります。 -
(2)暴力や脅しがあった場合も検挙が期待できる
ぼったくりに伴って、殴る・蹴るなどの暴力や「料金を払わないなら会社に請求するぞ」「今すぐ家族にところに行くぞ」などの脅しを受けた場合は、刑法第249条の恐喝罪が成立する可能性があります。
令和3年の検察統計によると、全国の検察庁で処理された恐喝事件のうち、逮捕を伴った事件の割合は75%でした。
暴行・脅迫によって財産への危害が切迫しているという悪質性が高い犯罪なので、恐喝を受けた事実が明らかになれば逮捕の可能性は高いでしょう。
4、ぼったくり店でお金を払ってしまった…取り戻すことは可能?
ぼったくりの被害に遭うと、怖くて言いなりになるしかなかった、危険を避けるためには支払いに応じるしかなかったといった状況に陥るケースもめずらしくありません。
以下では、ぼったくり店でお金を支払ってしまった場合にお金を取り戻すことが可能なのか同課について解説します。
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(1)ぼったくり被害に遭ったときの相談先
ぼったくりの被害に遭ったとき、まず相談するべきは最寄りの警察です。
以前は「民事不介入」という建前から警察が相手にしてくれないといった状況もありました。
しかし、ぼったくり事件の多くは、正確な料金が表示されなかったり、説明外のサービスやメニューで料金を加算されたりするなどの事態を含む、条例に違反する刑事事件であるため、単なる支払いトラブルとは性格が異なります。
まずは不当な請求による支払いの回避、生命や身体への危害防止という観点から、最寄りの警察に相談しましょう。
ただし、警察はあくまでも刑事事件として取り扱うのみで、支払ったお金の回収を代行してくれるわけではありません。
また、消費生活センターに相談することもできますが、一般的な防犯対策などのアドバイスにとどまる可能性が高いでしょう。
したがって、相手が検挙されたとしても、不当な請求を受けて支払ったお金の返還を求めるには別の方法で請求する必要があります。 -
(2)お金を取り戻したいなら弁護士に相談を
ぼったくり店に支払ったお金を取り返すのは困難です。
しかし、被害の事例をみると数十万円単位の被害が多く、なかには100万円を超える被害も存在しているので「運が悪かった」で済ませるわけにもいきません。
ぼったくり被害に遭い、不当な請求を受けて支払ったお金を取り戻したいと望むなら、弁護士に相談してください。
弁護士が代理人として相手と交渉すれば、ぼったくり店の関係者と顔を合わせることなく話し合いによって解決できる可能性があります。
支払い義務が生じないことや、条例違反にあたる行為があったことなどを法的な解釈を交えて主張することも可能であるため、まずは弁護士に相談して詳しい状況を伝えてください。
5、まとめ
飲食店や風俗店などにおける「ぼったくり」は、条例によって規制される違法行為です。
また、暴行・脅迫を伴う取立ては、刑法の恐喝罪にあたる可能性もあります。
ぼったくりの被害に遭ったときは最寄りの警察へ相談するべきですが、すでに料金を支払ってしまった後では、警察がお金を取り戻してくれるわけではありません。
しかも、ぼったくりの手口はマッチングアプリを悪用するなど巧妙化しており、警察に相談しても捜査・検挙に消極的な態度を取られてしまうおそれもあります。
ぼったくり被害の解決は、ベリーベスト法律事務所におまかせください。
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