性的DV(性的強要)とは|該当する行為や離婚事由になるのか解説
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令和2年における東京都豊島区の婚姻件数は1963件、離婚件数は414件でした。
相手が拒否しているにもかかわらず、性的な行為を無理強いすることは、夫婦間であっても「性的DV(性的強要)」に当たります。配偶者による性的DVに耐えかねている場合には、協議・調停・訴訟を通じて離婚できる可能性がありますので、お早めに弁護士へご相談ください。
今回は性的DVについて、該当する行為や離婚の可否、弁護士ができるサポートなどをベリーベスト法律事務所 池袋オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「令和3年 としまの統計」(豊島区))
1、性的DVとは?
「性的DV」とは、夫婦間で行われる性的な暴力(性暴力)や強要行為を意味します。
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(1)性的DVに当たる行為の例
性的DVにあたる行為の代表的な例は、以下のとおりです。
- 行為を拒否している配偶者に対して、性交渉を強要すること
- 性交渉の際、配偶者が頼んでいるのに避妊をしないこと
- 性交渉の際、配偶者に対して自分の性的嗜好(しこう)を無理やり押し付けること
- 配偶者が嫌がっているのに、ポルノ映像などを観るように強要すること
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(2)データから見る性的DVの現状
令和2年に内閣府男女共同参画局が実施した調査によると、配偶者による性的強要を受けた経験について、以下のように回答が分布しました。
<配偶者から性的強要を受けた経験>
(男女合計)
何度もあった 1.9% 1、2度あった 3.4% まったくない 92.6% 無回答 2.2%
(女性)
※夫から性的強要を受けた経験
何度もあった 3.1% 1、2度あった 5.4% まったくない 88.7% 無回答 2.7%
(男性)
※妻から性的強要を受けた経験
何度もあった 0.4% 1、2度あった 0.9% まったくない 97.1% 無回答 1.5% (出典:「男女間における暴力に関する調査 報告書<概要版>」(内閣府男女共同参画局))
上記の表を見ると、配偶者から性的強要を受けた経験が1度でもあると回答した方は、全体の5.3%です。
数字を見るとごく一部ではあるものの、実際に性的強要の被害に悩む方がいることが見て取れます。
男女別でみると、男性の1.3%に対して、女性は8.5%が配偶者から性的強要を受けた経験があると回答していることから、性的強要は、男性から女性に対して行われるケースが多いとわかります。
また、無理やりに性交等をされた被害経験について、女性は6.9%、男性は1.0%があると回答しています。
そのうち、加害者との関係が「配偶者(事実婚や別居中を含む)」であると回答したのが、女性では17.6%、男性では5.9%と、配偶者に無理やりに性交等をされることに悩む方もいることが見て取れます。
2、性的DVを理由に離婚はできる?
配偶者の性的強要に悩み、離婚を切り出したものの、離婚することや話し合いを拒否されてしまうケースもあるかもしれませんが、配偶者から性的DV(性的強要)を受けていた場合、法定離婚事由の「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性があります。
以下では、なぜ性的DVが法的な離婚の理由として認められる可能性があるのかを解説していきます。
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(1)法定離婚事由とは
配偶者と離婚するための手続きには、合意に基づいて離婚する「協議離婚」「調停離婚」と、判決に基づいて離婚する「裁判離婚」があります。
協議離婚と調停離婚については、当事者の合意が尊重されるため、離婚の理由は問われません。そのため、配偶者が離婚に同意すれば離婚を成立させることができます。
一方で、配偶者が離婚をかたくなに拒んでいる場合や、離婚条件の折り合いがつかないなど、協議、調停では離婚が成立しなかった場合は、裁判による離婚成立を目指すことになります。
ただし、裁判離婚は強制的に離婚を成立させるため、法定離婚事由の存在が必要とされています(民法第770条第1項)。
具体的には、以下のいずれかに該当することが、離婚請求が認められるための要件です。
- ① 不貞行為
- ② 悪意の遺棄
- ③ 3年以上の生死不明
- ④ 強度の精神病に罹り、回復の見込みがないこと
- ⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由
⑤の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」とは、上記①~④に匹敵するような、婚姻関係を回復困難な程度に破綻させる事由を意味します。
性的DVの内容があまりにもひどい場合や、日常的・長期間にわたってしつこく繰り返されている場合などには、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性があります。 -
(2)性的DVを理由に離婚したい場合の対処法
性的DVを理由に配偶者と離婚したい場合は、性的DVを受けていた証拠を確保することが大切です。
たとえば、性的DVが行われている際の録音データや画像、性的DVがあったことがわかるようなメール等のやり取りなどが挙げられます。
また、性的DVによってケガをした場合には、医師の診断書も有力な証拠となります。そのため、もしも性的DVが原因でケガをしてしまった際には、必ず病院に行きましょう。
これらの証拠を集めることで、つらい気持ちになってしまうかもしれません。
しかし、十分な証拠を確保しておくことで、離婚調停や離婚訴訟に発展した場合に、手続きを有利に進められる可能性が高まります。
ご自身ができる範囲で、証拠を確保しておきましょう。
ただし、配偶者による性的DVがあまりにもひどいときは、ご自身を守るため、別居するなどして配偶者との距離を置くこともご検討ください。
実家に身を寄せたり、一人で部屋を借りたりするなど、1日も早く配偶者から離れましょう。
また、離婚を検討した段階で弁護士にアドバイスを求めることをおすすめします。
離婚問題に詳しい弁護士であれば、スムーズに離婚を成立させるために有益なアドバイスを受けられるでしょう。
3、性的DV・離婚問題について弁護士がサポートできること
弁護士は、性的DVへの対応や離婚請求などについて、さまざまなサポートを行うことができます。
弁護士には守秘義務があるため、ご相談者様の相談内容が配偶者に伝わることはありません。性的DVが理由で配偶者と離婚したい場合は、ぜひお早めに弁護士へご相談ください。
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(1)離婚に関する見通しのアドバイス
配偶者との離婚を早期に成立させるためには、状況に合わせた対応方針を選択する必要があります。
協議・調停によって合意に基づく離婚を目指すべきなのか、それとも訴訟によって判決に基づく離婚を目指すべきなのかは、性的DVの状況や、配偶者の反応などによって変わるからです。
弁護士は、離婚に関する見通しをわかりやすくアドバイスし、被害者が適切に方針を選択できるようにサポートいたします。 -
(2)離婚協議・調停・訴訟の代理
実際の離婚手続き(協議・調停・訴訟)についても、弁護士が代理人として対応しますので、精神的にも物理的にも負担は大幅に軽減されるでしょう。
特に、専門的な調停・訴訟に関する対応を一任できる点や、配偶者と顔を合わせる必要がなくなる点などは、弁護士にご依頼いただく大きなメリットです。 -
(3)保護命令の申し立ての代理
中には、性交渉を拒否したことにより、配偶者から殴る・蹴るなどの身体的暴力を受けている方もいらっしゃるかもしれません。
身体的暴力を受けている場合には、裁判所に対して「保護命令」を申し立てることも検討できます(DV防止法※第10条)。
※正式名称:配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律
保護命令の内容は、以下のとおりです。
- ① 保護命令の効力発生日から6か月間、被害者の身辺につきまとい、または被害者の勤務先など所在する場所の付近をはいかいしてはならないこと
- ② 保護命令の効力発生日から2か月間、被害者と住んでいる住居から退去すること、および当該住居の付近をはいかいしてはならないこと
保護命令の申し立ては、所定の事項を記載した書面によって行わなければなりません(同法第12条)。保護命令を発令してもらうには、申立書に十分に説得的な理由を記載したうえで、その理由を証拠によって裏付けることが大切です。
なお、現在の制度では、「身体に対する暴力」と「生命等に対する脅迫」のみが対象となっているため、性的DVのみを受けている場合は保護命令を出すことはできません。
そのため、配偶者から性的DVを受けており、保護してほしいと思った場合には、専門の機関へ相談しましょう。
4、性的DVの被害に遭っている場合の相談先
配偶者からの性的DVの被害に悩まれている方は、精神的に追い込まれてしまい、なにから動いたら良いのか、どうすればよいのか悩まれている方も少なくないようです。
そのような方にむけて、行政機関が各種相談の窓口を設置しています。無料で相談できるケースがほとんどなので、まずは相談してみることも一案でしょう。
性的DVの被害について相談できる主な窓口は、以下のとおりです。
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(1)DV相談ナビ
「DV相談ナビ」は、配偶者からの暴力を受けているけれど、そもそもどこに相談をしたらよいのかわからない方に向け、内閣府男女共同参画局が設置した全国共通の相談窓口です。
「#8008」にダイヤルすれば、最寄りの相談機関の窓口に電話が自動転送され、性的DVの被害について直接相談できます。
相談できる時間が各機関の受付時間内に限られている点と、通話料が発生する点にご注意ください。
(参考:「DV相談について」(内閣府男女共同参画局)) -
(2)DV相談+(プラス)
「DV相談+(プラス)」は、配偶者から受けている様々な暴力、専門の相談員が対応してくれる内閣府が設置している相談窓口です。
24時間電話(フリーダイヤル)やメールで相談が可能な他、毎日12時から22時までチャットも対応しているため、すぐに相談したい場合や、配偶者がいないタイミングなどでも利用できます。
また、11か国語に対応しているので、日本語が得意でない方も安心です。
DV相談+(プラス)の連絡先は、以下のウェブサイトからご確認ください。
(参考:DV相談+(プラス)HP) -
(3)配偶者暴力相談支援センター
配偶者暴力相談支援センターでは、各都道府県が設置する婦人相談所や適切な施設においてカウンセリングを行なったり、自立した生活ができるように情報提供や援助を行なったりしています。
各都道府県のさまざまな施設に相談窓口が設置されており、各施設の所在場所や連絡先は、以下の資料をご確認ください。
(参考:「配偶者暴力相談支援センターの機能を果たす施設一覧」(内閣府男女共同参画局))
施設によって受付時間などが異なるので、事前に電話で連絡してから相談に行くことをおすすめします。
5、まとめ
配偶者から性的暴力を受けている場合は、一人で抱え込まず、行政機関の窓口へ早めに相談しましょう
特に、性的DVを行う配偶者と離婚したいと思っている場合には、できるだけ早期に弁護士へご相談いただくことをおすすめいたします。
ベリーベスト法律事務所は、離婚に関するご相談を随時お受けしております。
配偶者からの性的DVに悩んでおり、離婚を検討している方は、早期に被害から脱却するためにも、ぜひお早めにベリーベスト法律事務所 池袋オフィスへご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています