配偶者居住権とは? 制度のメリットとデメリット
- 遺産を残す方
- 配偶者居住権
- メリット
- デメリット
池袋を管轄する豊島区役所が公開しているデータによると、令和2年に「一般相談」として区民から寄せられた相談は全3937件で、そのうち、もっとも多かったのが相続に関する相談で564件でした。また、弁護士等の専門知識や資格を有する者が対応を行う「専門相談」についても、全559件あった法律相談のうち、127件が相続に関するものでした。
令和2年4月1日に施行された改正民法より、遺産相続の選択肢として、新たに「配偶者居住権」の制度が導入されました。配偶者居住権をうまく活用すれば、相続人のニーズに沿った形での遺産分割を実現できる可能性が高まります。
その反面、配偶者居住権を設定することに伴うデメリットも存在するので、弁護士にご相談のうえで、ご家庭に合った適切な解決を模索することが大切です。今回は、配偶者居住権の概要と、メリット・デメリットなどについて、ベリーベスト法律事務所 池袋オフィスの弁護士が解説します。
参考|豊島区広聴・区民相談・行政情報公開2021(令和2年度事業実績)
1、配偶者居住権とは?
「配偶者居住権」とは、亡くなった被相続人と同居していたなど、被相続人名義の建物に住んでいた配偶者が、そのまま建物に住み続けられる権利です。
令和2年(2020年)4月1日に施行された改正民法により、配偶者居住権の制度が新たに導入されました。
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(1)配偶者居住権が新設された経緯
配偶者居住権が新設されたのは、平均寿命の長期化という社会的背景を踏まえたうえで、遺産相続の選択肢を広げることを目的としています。
平均寿命の長期化に伴い、夫婦のいずれか一方が亡くなった後も、残された配偶者が長期間にわたり存命し、生活を続けていくことが増えました。
この場合、残された配偶者は居住建物を確保するとともに、生活資金として預貯金等の資産も確保しておくことが望ましいです。
被相続人の持ち家(自宅)に配偶者も住んでいた場合、配偶者は、住み慣れたその家にそのまま住み続けたいところでしょう。
改正前の民法下では、残された配偶者が被相続人の持ち家に住み続けるには、主に以下の3つの選択肢が考えられました。
しかし、これらの3つの方法はいずれも一長一短であり、必ずしも遺産相続における相続人のニーズを満たせない場合があります。① 配偶者が持ち家を相続する
価値の高い持ち家(不動産)を、丸ごと配偶者が相続することになります。
そのため、具体的相続分や遺留分との関係上、持ち家とは別に、生活資金となる預貯金等の資産を配偶者が相続することは難しくなることがあり、逆に、他の相続人に代償金を支払わなければならないこともあります。
② 他の相続人が相続した持ち家を、配偶者が無償で貸してもらう(使用貸借)
配偶者は無償で持ち家を使用でき、かつ生活資金となる預貯金等の資産を相続しやすいメリットがある一方で、他の相続人が使用貸借に応じてくれるかは不透明です。
また、使用貸借は非常に弱い権利である点が大きな問題です。もし所有者(所有権者)が第三者に持ち家を譲渡した場合、使用借権は消滅し、配偶者は持ち家を出ていかなければなりません。
③ 他の人が相続した持ち家を、配偶者が有償で貸してもらう(賃貸借)
配偶者には強力な賃借権が認められるため、安定的に持ち家に住み続けられる一方で、所有者に対する賃料の支払いが発生してしまいます。
これまで持ち家に無償で住んでいたのに、相続をきっかけとして賃料の支払いが発生するとなれば、配偶者にとって重い負担になり得るでしょう。
このように、「残された配偶者が相続発生以前の生活を維持する」という観点から、なかなか適切な方法が見つかりにくい状況の中で、遺産相続の選択肢を増やすために配偶者居住権が新設されました。
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(2)配偶者居住権のメリット
配偶者居住権は、主に以下の3点を特徴としており、これらがメリットといえます。
前述した各方法では実現できなかった遺産相続に関する家庭のニーズを、配偶者居住権をうまく活用することで実現できる可能性があるのです。- 配偶者は無償で持ち家に住み続けられる
- 原則として配偶者の終身存続し、登記によって対抗要件を具備できる強力な権利である
- 持ち家を丸ごと相続する場合より、別途生活資金となる資産を相続しやすくなる
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(3)配偶者居住権の設定方法
配偶者居住権は、以下の3つのいずれかの方法により設定されます。
① 遺産分割協議
遺産分割協議において相続人全員が合意することで、配偶者居住権を設定できます(民法第1028条第1項第1号)。
② 遺言
被相続人は、遺言により配偶者居住権を設定できます(同項第2号)。
なお、婚姻期間が20年以上の配偶者について、遺言で配偶者居住権を設定した場合、被相続人の「持ち戻し免除」の意思が推定されます(民法第1028条第3項、第903条第4項)。
③ 家庭裁判所の審判
以下のいずれかに該当することを要件として、家庭裁判所の審判によって配偶者居住権が認められる可能性があります(民法第1029条)。
- 共同相続人間で、配偶者による配偶者居住権の取得について合意が成立しているとき
- 配偶者から申出があり、かつ物件所有者の不利益の程度を考慮してもなお、配偶者の生活を維持するため特に必要があると認められるとき
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(4)配偶者居住権の活用例
配偶者居住権を活用するメリットがあるのは、主に相続財産の総額に占める持ち家(土地・建物)の価値の割合が大きい場合です。
例えば、相続人が配偶者と子2人、相続財産の総額が5000万円、その内訳が持ち家の土地・建物合計4000万円、預貯金1000万円だとします。
この場合、配偶者が持ち家自体を相続すると、相続財産の少なくとも80%を配偶者が相続することになり、法定相続分を超えてしまうため、他の相続人である子2人に対し、代償金を支払う必要が生じます。
子2人に預貯金1000万円を与えるとすると、相続税の納税資金を捻出することも大変ですし、今後の生活費の確保はままならないでしょう。
そうは言っても、子のいずれかに相続させた持ち家を配偶者が借りる場合、前述のとおり、居住者としての権利が不安定化するなどのデメリットが生じます。
配偶者居住権を活用すれば、配偶者が相続する財産の評価額を抑えつつ、安定した居住権を確保できる点が大きなメリットです。
2、配偶者居住権のデメリットは?
配偶者居住権には、遺産相続の選択肢を広げるメリットがある一方で、以下のデメリットも存在する点に注意が必要です。
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(1)配偶者居住権にも相続税が発生する
配偶者居住権は、原則として配偶者の終身にわたり存続する強力な権利であるため、物件全体の価値に対して一定割合の相続税評価額が割り当てられます。
したがって、配偶者居住権を取得する配偶者は、その相続税評価額に対応する相続税の納付義務を負う点に注意が必要です。
ただしその反面、物件の所有権を取得した者の相続税額は軽減されます。
また、基礎控除や配偶者の税額の軽減が適用された結果、配偶者が納付すべき相続税額がゼロとなるケースも多いです。
配偶者居住権の設定に伴い、相続税の課税へどのような影響が生じるかについては、弁護士を通じて税理士のアドバイスを受けることをお勧めいたします。 -
(2)配偶者の存命中は、物件の売却が難しくなる
配偶者居住権を設定した場合、配偶者の存命中は、所有者が物件を売却することは難しくなります。
配偶者居住権の制約により、物件を購入した新所有者が自ら使用したり、第三者に物件を貸して収益化したりすることができないからです。
その反面、建物の維持費や固定資産税等は発生しますので、配偶者居住権を設定した物件の所有権を相続する場合は気を付ける必要があります。 -
(3)生前に被相続人と別居していた配偶者は利用できないことがある
配偶者居住権は、被相続人が生前所有していた建物に、被相続人の死亡当時に居住していた配偶者についてのみ認められます(民法第1028条第1項)。
「居住していた」とは、建物を生活の本拠にしていたという意味です。
したがって、配偶者が、生前に被相続人と別居していた様な場合は、配偶者居住権を設定できない可能性があることに注意しましょう。
3、生前の相続対策に関する相談は弁護士へ
遺言による配偶者居住権の設定を含めて、相続の発生に備えた生前対策を行いたい場合には、弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
弁護士は、十分な法的検討を行ったうえで、遺言無効や遺留分などのトラブルリスクを抑えられる生前対策案をご提案いたします。
また、必要に応じて税理士と連携し、相続税対策に関するアドバイスをご提供することも可能です。
相続対策について弁護士へご相談いただくことは、ご家族で相続について話し合う良いきっかけになります。
相続対策はお元気なうちに行うことが大切ですので、少しでも関心を持った方は、お早めに弁護士までご相談ください。
4、まとめ
配偶者居住権をうまく活用すると、ご家庭のニーズをよりよく満たす形での遺産相続を実現できる可能性があります。
その反面、配偶者居住権についても相続税が発生する点や、配偶者居住権の設定後は物件の売却が難しくなる点に注意が必要です。また、被相続人と生前別居していた配偶者は利用できない可能性があります。
このように、配偶者居住権にはメリットとデメリットがあるので、弁護士にご相談のうえで、最善の方法を検討することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、遺産相続や生前の相続対策に関するご相談を随時承っております。
各相続人にメリットのある遺産相続を、円満な形で実現したいとお考えの方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 池袋オフィスにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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